
ああ、そうですか の優しさ
最近、ああそうですか、という言葉をよく使うようにしている
この言葉はどこか優しい響きを孕んでいると思うからだ
きっかけは時々するお仕事でお会いした女性の言葉だった、
その人はもう老舗の誰しもが名前を知る百貨店の婦人服部で長年働いていて、店頭での接客から始めて勤め上げ、本部に来た方だから、わざわざ百貨店に買い物にくるような大変面倒な女の人の扱い方・あしらい方に長けていて、お会いするたびに気の利いた言葉をペーペーの私にもかけてくれる。それはいかにも言ってやったぜ、というコテコテのお世辞ではなくて、ちょうどよく品が良くて、同性だけど嬉しくなってしまう、
あら、この前お会いした時はスーツでシュッとしていたけれど、私服の方が似合っててかわいいですね、
とか
そんなことを私がど緊張でこんにちはぁ…、と恐る恐る会議室に入った直後にすっと言ってくれるもんだから、
とにかく心地よい、
仕事でも遊びでも結局は対人コミュニケーション
接客を制する彼女は世界を制することができるんじゃないかと思えた
閑話休題、
そんな彼女は、会議で提案を聞いた後でも私たちとのちょっとした雑談の時でも
そうですか、
という.
そうですよねでもそうなんですかでもなく必ず
そうですか、と
なんだか心地よかった
字面にすれば冷たいしそのまま言い放てば素っ気ない雰囲気が多分に出てしまうのだけど、彼女の言うそうですかには、なんだか落ち着きがあった
そうですか、とはよくよく考えてみるとなんだか不思議な言葉だと思う そこには肯定も否定もない そうですよね〜と言う無理した共感もなく、そうなんですか〜〜!と言う無駄に誇張した驚きもない
ただ、相手の言葉を飲み込んで、「あなたが言うことは理解しました 今やっと、どうすればお互いの利益を最大化あるいはリスクを最小化できるか話し合える土俵に立てました、さてここから話し合い始めましょうか、」と言う状況の確認 まるで私の会話に”既読”をつけられたような気分になる
その無機質な言葉には素っ気なさと同時に安心感も感じられた
別に相手の意見の全てに自分の感情を乗せて返さなくてもいいんだ、毎回毎回全てのことに感想文書いてたら疲れちゃうし、
自分の感情をちょっと置いておいて、
事実だけを受け取れる言葉
優しいな、と思った
…まあもちろん彼女はそんなこと思ってないんだろうけど、
それから度々そうですか、を使いこなす練習をしている
「これが最近の流行りらしいよ、」
「ああそう、」
「この前奥さんにこうやって言われてさあ、」
「そうですか、」
「……いとうちゃん最近冷たくなった?」
……どうやら長年の百貨店販売員のトークスキルに及ぶまでにはまだまだ時間がかかるみたい、
それではおやすみなさいまた明日、
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