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フットボールのダイヤモンド・オフェンス における攻撃サポートの構造化24 パスの7原則 〜バスケットボール4〜

テックス・ウインター(1962)は、トライアングル・オフェンスのためのパスの基本的な原則を提唱している:

パスの7原則:

1. パサーとそのディフェンスの距離はできるだけ狭いほうがよい。1m 以内が望ましい。ディフェンスの距離が近ければ近いほど、ディフェンスはこちらの動作に対して早く反応することが難しくなる。
2. ボールハンドリングやパスにおいて不必要な動作はおこなわない。ゆっくりとした予備動作も避ける。パスの方向にも踏み出してはならない。すべてのパスをすばやい手首と指先の動きでおこなう。パスにともなう動作は最小限にとどめるようにする。
3. パスラインとレシーバーを視野に入れるが、レシーバーの方向を見てはならない。視野に入っていないレシーバーにパスしてはならないのはもちろんであるが、パスを出すレシーバーに顔を向けてもならない。視野に入れることと見ることには大きな違いがあるのである。目線を動かしながらレシーバーを視野におさめるようにする。
4. フェイクは目的のあるときだけにおこなう。形だけのフェイクはしない。過剰にフェイクをするプレーヤーは、やたらボールを動かし、ディフェンスの手の動きを見ることができない。そうなると、パスレーンを視野に入れることもできず、落ち着きを失い、味方プレーヤーへの正確なパスができなくなる。マッチアップされているディフェンスの動きをしっかり見極め、ディフェンスの手にあたらないようにすばやくパスをおこなう。ディフェンスの頭の周辺は、よいパスゾーンになる。
5. オープンサイドへのパスをねらう。これは経験豊かなプレーヤーでさえも無視しがちな原則である。自分のディフェンスだけでなく、パスラインやレシーバーのディフェンスが視野に入っていないと、この原則が守れなくなる。ディフェンスがどのようにまもろうとしているのかを察知し、その逆をつくことである。レシーバーにもパスを成功させるための責任がある。レシーバーは、自分がよい標的になるような姿勢をとらなければならない。レシーバーは、ボールと自分のディフェンスとの位置関係によってポジションどりをしながら、ボールをキャッチするまでパスラインに自分のディフェンスが入ってこられないようにしなければならない。
6. ボールをパスする。オープンになったプレーヤーへすばやくパスできることが最も重要である。すぐれたプレーヤーは、味方からボールを受け取ってから3秒以内に、パス、ドライブ、フェイクなどのプレーをおこなうことができる。次のプレーに移るまでの時間が3秒より短ければ短いほど、そのプレーヤーは一流だといえる。ボールは絶えず移動していなければならない。ボールを移動させることによってディフェンスはボールを追うことになり、それによってパッシングレーンが空き、得点チャンスが生まれる。優れたチームのゲームを観戦すれば、このパスの原則の重要性を理解できるだろう。
7. パスを受けるときは常に次の状況を予想する。どこにパスを出したら一番よいかを事前に予測できるようなバスケットボール的な直感を養う。一流のプレーヤーは皆、この直感を備え持っている。NBAのチームが、組織プレーがほとんどなくても効果的なプレーをおこなうことができるのは、このためである。NBAのプレーヤーの質は非常に高いため、プレーをパターン化しなくても得点のチャンスをつくることができるのである。優れたプレーヤーとは、ボールを持っているいないにかかわらず、プレーすることができるプレーヤーのことである。そのようなプレーヤーは、ボールを持っていなくてもディフェンスを引きつけることができるので、ディフェンスはカバーに出ることができなくなってしまう。プレーヤーが優れていればいるほど、チームとしてのオフェンスパターンなしでも、得点チャンスをつくり出すことができるようになる。しかし、プレーヤーにそれだけの能力がない場合は、チームとしてのオフェンスパターンをつくり上げてディフェンスを引きつけなければならない。そのパターンをおこなうことによってあるプレーヤーのディフェンスが甘くなれば、そのプレーヤーは楽に得点できる状態になるのである。

テックス・ウインターが提唱する「7つのパス原則」をしっかりとトレーニングすることで、パスの成功率が飛躍的に向上すると考える。パスを成功させる能力が、試合中の様々な状況において、攻撃を成功させるための必要不可欠な要素であることをテックス・ウインターは述べている。そして、この「7つのパス原則」は、ボールを使う集団スポーツのパスの原則にも応用可能であると考える。

メッシやイニエスタがパスをする時を思い出してみる。「7つのパス原則」がすべて含まれているように思う。2人とも、パスをする時に無駄な動きは1つもなく、フェイクはほとんど使わず、相手をできるだけ自身に引きつけ、パスをする方向も見ない。見ないと表現しているが、本当に見ていないのではく、パスをしようとするチームメート、相手、オープンスペースが周辺視野に入っている状態を指すのだと考える。周辺視野については「パスのアングルオプションの章」で説明した。

更に直感でプレーしているので、次のプレーに移行するのが早く、次のプレーが予測されている。そして視野が広い。思うにクラックと呼ばれる集団スポーツのプレーヤーは皆同じ境地に達しているので、「7つのパス原則」が当てはまるのだと考える。

パスを成功させる能力は、すべての攻撃的フットボールを実現させるための前提条件であると思う。パスのトレーニングをすることで、相手のディフェンスを読み、レシーバーはより良い場所でボールを受ける、パサーはどこにパスをしたら最も効果的かという直感を育てることができることだろう。そのような理由で、パスのトレーニングはいかに実践と同じような状況を作って、トレーニングをするかが鍵となる。パスはテクニックであるが、テクニックは戦術を実行するための道具であると考える。いつ、どこに、どのタイミングでパスをするのか、もしくはパスを受けるのかを実践的なトレーニングをすることによって身につけることができると考える。


引用・参考文献:

Winter, Tex. The triangle offense. FIBA assist magazine, (2007). 1-2. 4.

Winter, Tex. The Triple-post Offense: Sideline Triangle. Ag Press, (1997). 3-7, 9-11, 16-21, 40-49, 76--82, 88-90.

ウインター・テックス. バスケットボール:トライアングル・オフェンス. 監訳:笈田欣治. 訳者:村上佳司, 森山恭行. 大修館. (2007). 3-4.

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