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どぶネズミと不死身の少女

「きゃああー!」
 可愛らしい叫び声と共にJK風の格好をした美少女が吹っ飛び、体力値が0になる。俺達の勝ちだ。
 敗けた美少女の体が光と消えその場には全裸中年男性が残った。

 [俺のガチ恋を返せ]
 [キモい体を晒すな]
 [死んで詫びろ]
 低評価とコメントが瞬時に中年に叩きつけられる。

 量子都市ウクバール、そこは生身の体をポッドに納め、全感覚を仮想空間の巨大都市へと移すことを選んだ奴等が集まる場所。アバターとして肉体を自由に出来る場所。
 ここπ区画は他人からの評価ポイント、つまりは人気により個人に与えられるリソースが割り振られる。
 極端な人気格差社会だ。

 ここで最も熱いエンタメがアバターファイト。互いのポイントを賭けるバトルゲーム。
 敗けてアバターを維持できなくなる程ポイントを失えば、醜い現実の身体を晒し低評価の嵐で二度と最底辺から上がれない。ある意味ではデスゲームである。
 高位ランカーともなればとてつも無い人気が得られる。

「ネズミさん、あの方大丈夫でしょうか?」
 鈴の様な声で語りかけてきたのが俺の相棒。12歳位の小柄な少女。この世の美とカワイイの化身とも言える容姿のアバターだ。
 猫耳と黒ゴスドレスで可愛らしさ倍点。

「こちらが下と舐めてポイント全賭けに乗ってきたんだから自業自得だ。まあ1からやり直せるさ」
 嘘である。あそこまで炎上すれば最底辺から上る事は不可能だ。
 彼女の両掌にいるネズミが俺のアバター。
 意地悪そうな笑い顔が特徴のブサイクなデフォルメを施している。マスコットは可愛く無い方が相棒が際立つ。

 現実で人の顔をまともに見れない程のコミュ障の彼女をここに連れて来たのが一月前。彼女は以前が嘘の様に生き生きと生活している。それと共にランキングを怒涛の如く駆け昇った。

 俺だけが知っている。彼女のアバターが容姿も声も現実とほぼ変わらない事を。
 敗けた所でノーダメージ、このゲームでは不死身と言って良い存在だということを!

(続く)

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