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カツレツの夢

分厚いとんかつ。
薄いとんかつ。
どちらもそれぞれおいしく、どちらが好きとかいいとか決められない。

力強い歯ごたえに、噛みごたえ。
滲んででてくるおいしい肉汁。
分厚いとんかつは肉そのもののおいしさを心おきなく味わう料理。
一方、薄いとんかつはサクサクとしたパン粉衣が前歯をくすぐる感じがおいしい。
肉とパン粉がひとつになって分かれるようにも分かれることができなくなった、のっぴきならない関係性を味わう料理。

昔、家で作って食べていたとんかつはみんなそういう薄いとんかつ。
定食屋さんとか洋食屋さんとか、気軽なお店のとんかつもやっぱりみんな薄いとんかつ。
最近、見る機会がすっかり減った。
誰にでも作れそうに思える薄いとんかつでは、値段をとることがむつかしいからと、分厚いとんかつを作るお店が増えたからでしょう。
丁寧に作られた薄いとんかつは、肉肉しいばかりの分厚いとんかつとはまるで違ったゴチソウで、それはそれはおいしいのだけど…。
自分で作るのは案外むつかしく、そういうときにはとんかつじゃなくて「カツレツ」を作って食べることにしている。

懇意にしているイタリアンレストランのシェフに教わった作り方。
肉を叩きます。
ラップで包んだ脂の少ない赤肉をひたすら叩いて薄くする。
筋があったら包丁を入れ切って抜き、粉を叩いて休ませる。
玉子をといたらそこにたっぷりパルミジャーノをすりおろし、薄づきにしてパン粉をつける。
パン粉はフードプロセッサーで細かく、細かく砕いて乾かしギッシリ付けたらまた休ませる。
オリーブオイルを熱したところに入れてよく焼く。
肉とパン粉が大きな泡を吐き出しはじめ、それが細かく小さくなったらひっくり返してまた焼いていく。
こんがり焼けたら取り出して、キッチンペーパーでくるんで体重のっける。
衣と肉がくっつきながら余分な油が絞り出される。
出来上がり。

衣と肉が渾然一体となって口をニギヤカにしてくれる。
そのまま食べても、レモンを軽く搾っても。
あるいはトマトとバジル、オリーブオイルをなじませたケッカソースをたっぷりかけてもその一体感は揺るぎない。
なんならトマトソースで煮込んでもサクサクとしたパン粉衣は健在で、チーズをのっけて焼いてもよし。

実はこのカツレツをザクザク一口大に切り分けて、ご飯にのせてカレーをかけるとおいしいコト。
ご飯とカツレツ、カレーが一度に口の中でこわれてとろけ混じって消えるおいしさ。
たまりません。
いつか大きく焼いたウィンナーシュニッツェルをご飯にのせてカレーをかけて食べてみたい…、と小さな野望。ベリーソースも一緒に添えてねって思ったりする。オモシロイ。


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