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たちかま

たらきく。

冬の美味のひとつです。
たらの白子をたらきくと呼ぶ。
噂には聞いていました。
けれど生まれてはじめてその実物に遭遇したのはボクが社会人になってからのこと。
仙台に出張に行きました。
時は冬。
地元でも名の通ったお店のカウンターで、体をあたためてください…、と、蓋つきの上等なお椀が登場。
蓋をあけるとすましの汁の中でユラユラ、白い物体が揺れていました。

おぉ、キクか!

地元の紳士が声をあげます。
あぁ、なるほどこれが「たらきく」。
「タラのお腹の中に収まった白い菊の花のようなモノ」にみえるから「たらきく」と名前がついたのでありましょう。
地元の人のご馳走も、はじめての目にはいささかグロテスクてちょっとためらいながらパクっ。

ちょっと困った食べ物でした。
噛むべきなのか。
そのまま味わうべきなのか。
噛もうとしても膜がかなり強くて頑丈。
噛み切ろうとするとクニュクニュ逃げていく。
奥歯で捕まえ潰すとブチっと崩れて中から強い旨味がとろけてでてくる。
磯の香りが強くて独特。
ほかに例えることができる食べ物がみつからないほど独特で、あぁ、これは大人の食べ物だと汁で残りを流し込む。

そんな初体験も遠い昔の笑い話にしてしまえるほど、今は冬のたらきくが待ち遠しくさえ思うおじさん。
2019年の今年はあらたな「キク」の食べ方に遭遇しました。

「たちかま」という料理があります。
「たち」はタラキクのこと。
「かま」はかまぼこ。
つまりタラキクで作ったかまぼこという食べ物なのだけれど、これがおいしい。
まず食感がおもしろい。
舌にのせるとピトッとはりつく。
スベスベなめらか。
噛むとシコシコ。
ちぎれまいとして逃げ回る感じはまさにタラキクそのもの。
ムチュンと歯切れてそれから徐々にとろけて粘る。
刺身用のこんにゃくがある瞬間、生麩に姿を変えていくような感じがほかにない。
海の香りを感じます。
好きか嫌いかの分かれ目はその独特の匂いをおいしいと感じかどうか。
ただその匂いの癖が酒をねだります。
ホヤであったり酒盗であったり、酒がおいしい食べ物には匂いのくせがあるもので、そうそう、チーズだってそうでしょう。
東京で手軽にたのしませてくれるお店がそうはないのがちょっと残念。
大人の今のオキニイリ。

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