見出し画像

讃岐のうどん屋でやわいそばに出汁タワー

父は讃岐出身で、ボクの生まれ育ちは愛媛県の松山。
数ヶ月に一度の割合で里帰りする父に連れられて訪れる讃岐はちょっと外国みたいな不思議な魅力があった。父が実家に戻ると、「お疲れさん、まずうどんでも食べなさい」と言われる。
台所に行くと大きなせいろにうどんが10玉ほど並んでて、横にはお湯が沸いた鍋。そこにうどんを落とし、程よく茹がいたら引き上げ丼にいれ醤油をかけてズルンと飲み込む。食べるのでなく文字通り「飲み込む」のだけど、それはそれはおいしかった。

何かあると製麺所でうどんを買って家で食べる…、というこの風習は讃岐独特。だから大人になるまで、讃岐うどんというものをお店で食べたことがなかった。しかもそのお店というのが製麺所の軒先や工場の隣のような場所だったのが印象的でだから今でもプレハブ造りの工場っぽいのうどん屋さんを見つけると、当時のことを思い出してウキウキしてくる。

画像1

高松の駅前。バスロータリーに面したとおりに味庄っていうセルフのうどん屋さんがある。
そこがまさしくそういうお店。
入り口脇に自転車一台。
来るたびあって、お店の人が乗ってきているに違いない。生活と店の仕事が継目なしにつながっている、ボクが好きな店にはそういうお店が多かったりする。

画像2

朝早起きのお店で、7時ちょっと過ぎというのにほぼ満席です。
繁盛しているうどん屋さんのお店の空気は潤っている。茹で釜から出る水蒸気に、出汁のおいしい香りが混じって朝の気持ちがシアワセになる。
カウンターがはじまるところにお稲荷さんやばら寿司があり、ウォーターサーバーの隣で麺を注文する。それから天ぷら。お金を払って出汁を自分で注いで食べる。

画像3

この出汁の入った容器が大きなステンレスのタワーのようで、蒸気でずっと温められてる。
蛇口をひねると勢い良く噴き出してくる出汁の香りのおいしいコト。これが家にあったらどんなにシアワセだろうといつも思ってにんまりします。

画像4

ちなみにここではうどんじゃなくて蕎麦をたのみます。
案外、蕎麦も人気の店で県外の人はまず間違いなくうどんをたのむ。けれど地元の人は10人に一人ぐらいは蕎麦をたのんでるみたいで、だからお店の人も怪訝な顔するコトなく蕎麦を作ってくれる。

画像5

天ぷらを2個。ひとつはちくわ天で、もう一種類はエビのかき揚げ。殻付きの小さなエビに衣たっぷり。おいなりさんもひと皿もらってひと揃え。

画像6

ちょっと太めの色黒の蕎麦。
角張っていて、ねっとりやわらか。みるみるうちに出汁をグイグイ飲み込んでいく。
イリコの香りが強烈で、軽い渋みと苦味が残る荒々しい汁。一口飲めば体に力がみなぎる感じ。
上にエビのかき揚げをのせ、そばを底から引っ張り出してそれを沈める。
衣が出汁をまた飲み込んで、丼の中の水位が下がる。出汁を再び注いで食べます。

画像7

食べてるうちに衣が湿ってホロホロかき揚げが崩れて散らかる。天ぷら油の香りとコクが、イリコの出汁を一層力強くして、蕎麦と一緒に口の飛び込み口を潤す。出汁を含んだやわ麺は、まるで出汁が麺の形をなしているようで心おきなくおいしい出汁を味わい尽くす。

画像8

ちくわの天ぷらは指でちぎって一口大にしておいて、ウスターソースをかけて蕎麦のおかずにします。ウスターソースの酸味と香り、スパイシーな風味が天ぷらをハイカラ味にしてくれる。
ここのおいなりさんはびっくりするほどみずみずしい。煮汁をたっぷり吸い込んだお揚げさんで包んでて、噛むとジュワッと煮汁が染み出す。そこですかさず出汁をゴクリ。口の中がきつねうどんのようになる。シャリはもっちりやわらかめ。お酢がきっぱりきいていて、一口ごとにお腹が空くようなオゴチソウ。ずるずるハフハフ、味わって朝のお腹が満たされました。

画像9


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?