武蔵小杉の中古タワマン市場、今はどうなっているかをデータで解説

台風19号が日本列島を襲ったのは2019年の10月11日から13日。
この台風の主な被害は次の通り。

死者86人 負傷者476人 行方不明者3人
住家の全壊3,273棟、半壊28,306棟、一部破損35,437棟、
床上浸水7,666棟、床下浸水21,890棟
公共建物の被害187棟、その他の非住家被害13,769棟

何ともすさまじい被害状況である。
堤防が決壊して泥水に覆われた街や、
車両の半分までが泥水に浸かった新幹線の映像は
今でも多くの人の目に焼き付いているはずだ。

住宅の被害も目を覆わんばかり。
全壊だけで3,273棟・・・・
おそらく約3万棟の住宅は、
二度と人が住めなくなったのではないかと推測する。

私事ながら、台風一過の13日日曜日は何事もなく事務所に出て
様々な原稿を書いていた。その日は何とか平穏に終わった。
しかし翌14日は事務所に着くなり何本もの電話がかかってきた。
そのすべては、水害に遭った武蔵小杉の
タワマンについてのコメント取り、あるいは緊急の原稿依頼。
情報番組への出演要請も相次いだ。

何とも不思議だった。
その時点で亡くなった方は50名を超えていたと記憶する。
住宅の被害なんて、まだ推計値すら出ていなかった。
それだけの凄まじい被害が発生しているのに、
地上波キー局の情報番組では連日のように
エレベーターと上下水道、トイレが使えなくなった
タワマンについてわりあい長い時間を取って放送している。

メディアからの依頼があるたびに私はディレクターや
編集者、記者に同じことを尋ねた。
「家を流された人が何百、何千といるのでしょ。なのになぜ高々エレベーターが停まってトイレが流せないタワマンを取り上げるの? 別に住めなくなったわけでもないし、いつか必ず復旧するのですよ」
私の質問に対して、彼らは一様にちょっと困った顔をした。
まあ、私に仕事を依頼するのは末端の人々。
プロデューサーや編集長に聞かなければいけない質問だった。

「まあ、ひと月もしたら収まるだろう」 私はそう考えていた。
何がというと、武蔵小杉の被災タワマンに対するメディアの報道である。
しかし、その予想は甘かった。ひと月たっても、三月経っても、
半年たった後でさえ、そのことについてのコメント取りや
原稿依頼がやまなかった。多分、今後もあるだろう。

なぜ、メディアはあそこまで武蔵小杉の被災タワマンを取り上げたか?
私なりに出した答えはこうだ。

1 ムサコマダム、ザマーと思う人が一定数いる
2 被災直後からの管理組合側の対応にメディアが反発

この二つだろうと思う。
武蔵小杉は2007年頃からタワマンが建ち始め、
あっという間に街の様相が変わった。
駅前のタワマンに住む人は収入の高いサラリーマン。
従来、ブルーカラーの街であった武蔵小杉では当初異色の存在。
しかし、たちまちのうちに彼らがこの街のメジャーな住人となった。

そのうち「ムサコマダム」などという言葉が生まれる。
タワマンの街でベビーカーを押して歩く、
若くてきれいなお母さんたちのことだと思う。
サラリーマンの成功人種ファミリーだから、
世間のやっかみも溜め込んだのだろう。

そんな武蔵小杉のタワマンが水害に遭ってエレベーターが使用不能。
下水が逆流して酷いことになっている・・・
そう聞くと「ザマー」と思う人が一定数いたわけだ。
だから視聴率や反響が取れるので、何回も取り上げる。

一方、被災直後にはメディアの取材が殺到。
これに対して被災タワマンの管理組合は緘口令で対応。
オープンスペースになっている敷地内に足を踏み入れた
メディアの記者を怒鳴りつけて追い出すなど、
あまり上品ではない対応に終始したそうだ。

メディアと言えども人間である。
「コノヤロー」と思えば、それが何かの形でアウトプットされる。
また「だったらとことんやってやろうじゃないか」ともなる。
そういう反作用を考えずに、だんまりを決めれば
自分たちには有利なになる、と管理組合側は考えたのかもしれない。
まるで北朝鮮や中国共産党の発想だ。何とも稚拙。

その結果、被災直後から武蔵小杉エリアは
当該の被災タワマンだけでなく、街全体に対して
報道によるネガティブキャンペーンが行なわれたようなもの。
さらに、このキャンペーンは武蔵小杉だけでなく、
「タワマン」という住形態に広がっていく。

私は住宅ジャーナリストとしてもう11年ほど
タワマンに対して否定的な言説を発し続けてきたが、
そのことは今では全くマイナーでない。
私以外の多くが、タワマンに否定的な記事をお書きになっている。
私はすっかりワンノブゼムになってしまった!

さて、被災直後から私のところに様々なメディアから
コメントや原稿の依頼があったが、依頼内容のほとんどが
次の3点に集約される。

1 武蔵小杉のタワマンは資産価値が下がるか?
2 被災タワマンの資産価値はどれくらい下がるのか?
3 タワマンは災害に弱いのか?

1と2はエリアで見るか特定物件に絞るかの違いである。
しかし、その違いはわりあい重要だったりする。
3の答えはほぼ出ている。
詳しくは拙著「限界タワーマンション(集英社新書)」に詳しく書いた。

ここでは、1と2の答え合わせをしよう。
被災から約8か月が経過している。
これだけの時間があれば、変化は出ているはずだ。
実際、全体としてビビッドには変わっていないが、
明らかな変化もいくつか見受けられる。
そういった動きを、市場のデータをもとに分析したい。

恐縮ですが、ここからは有料になります。990円です。
基本、オープンソースから導き出した原稿である。
「この記事にしかない」などという下世話な
内容ではないことを、あらかじめご承知おきくだされたい。

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