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仕事の在り方について

僕が30歳の頃の話。あるホテルへ商談にいったとき、八百屋や肉屋が商品を見てほしくて並んでいた。料理長がニンジンを何本かパキッと折って、「ダメだな」と一言。八百屋は折られたニンジンを箱に入れて持ち帰った。肉屋は、ロースを料理長に見てもらいたくて2本並べた。躊躇なく真っ二つにカットして、しばらく考えた末、サーロイン1本を指差し、「今日はこれだけでええわ」と。お気に召さなかったリブロース2本とサーロイン1本は、肉屋のお持ち帰り。

名のあるホテルなので、僕も取引できればと思ったのだが、僕が関わる世界ではないと、商談することなく帰ったのでした。それよりも、我々「業者」という立場はこんなにも地位が低いのかと悶々としたのを覚えています。

何年前に出版されたのかわかりませんが、たまたまSNSに流れてきた料理雑誌の記事。あの当時のことを思い出します。もちろん、すべてのホテルがそうでないことは理解していますし、料理人にフォーカスした内容なので仕方がないとは思いますが、それにしても、「業者」との関係性、生産者へのオマージュ、命ではなくモノとしての向き合い方に、後味が悪すぎます。

「肉は切って初めてわかることもあるため、必ず切らせてもらいます。こちらが頼んだ手前、申し訳なく思いますが、仕入れずにお返しすることもあります」

「業者さんは見た目が美しくサシの入った肉をよしとするのに対し、我々は焼調整をしておいしくなるかどうかで判断します。そのような多少の見方の違いというのも、会話をしていて興味深いですね」

僕はセリで枝肉を仕入れますが、もちろん当たり外れはあります。それこそ切らないとわからないこともあります。でも、そのたびに返品していたら、出入り禁止になってしまいます。

返品された肉を捨てることはないとは思いますが、流通の過程でだれかが泣くような仕組みや考え方は時代に逆光しているように感じます。このホテルが特殊な環境だとは思いますが、歴史ある厨房だからこそ、もっと命と向き合い、生産現場を見てほしいと思います。

僕は基本ホテルとの取引はしませんが、例外もあります。それはホテルというより、シェフとのお付き合いから成るものです。人間関係ができていないと、ホテルや大企業が運営しているレストランとの取引は疲弊してしまいます。

どこを向いて仕事をしているのか。いま一度自分も含めて考えさせられるきっかけをいただきました。



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