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いっぱいになった感情を減らして、心の余白を作る必要がある

医療者が患者に向き合うとき、僕がどのようにしているか。僕の考える心の仕組みをお伝えします。僕はこれがわかってから、格段にコミュニケーションしやすくなりました。

心の仕組み

心の中は、思考と感情に分けられます。思考は行動につながり、意識的なもの。感情は身体反応につながり、無意識的なものです。思考が行動をつかさどり、感情が身体反応の一部をつかさどっていると考えます。

「感情をコントロールしよう」とよく言われますが、寂しい時に、その感情を無視して楽しい気持ちになれるものではありません。身体反応も同じで、体がかゆいときに、それを止めることは難しいのです。ただ、かゆい時には薬を塗ってかゆみを抑えられます。つまり、行動によって、身体反応を変えられるのです。

コントロールできない感情を直接何とかしようとしても徒労に終わります。思考、つまり行動をコントロールした結果として、感情が変わっていくと理解しましょう。

思考や行動にアプローチするとはいえ、感情は心や頭の中で、とても大きな部分を占めます。アプローチするのが行動だとしても、心の中を占めている感情の見極めが必要となります。

心には、感情や思考を入れる「容量」がある

心に入れられる感情や思考は、容量が決まっています。最大量を仮に100と定義しましょう。

初めての体験により大きな感情やストレスが生まれたとき、それは20くらいの容量かもしれません。ところが、経験があり「こういうものだ」とわかっている場合は、5くらいになることもあるでしょう。つまり、経験や学習によって心や体に占める割合が減っていきます。

また、心と体はつながっているため、身体疾患が出ているときには心にストレスがかかります。患者さんに身体反応があるときは、ストレスで心がいっぱいになっているつらい状況と言えるでしょう。

心の余白を作って治療をしていく

心が感情でいっぱいになり余白が少ないと、自分をコントロールできない状態になります。

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ブルーをネガティブな感情、ピンクをポジティブな感情と考えてください。

こんな風に心の中が感情でいっぱいになっているときには、思考や行動の制御すらできないため、他者による積極的な治療が必要です。

身体反応の場合は薬などで抑えられ、それによって心のストレスもなくなります。ところが、感情の動きはすぐになくせるものではありません。例えば、過去の経験によるつらい感情がずっと溜まっている場合には、少しずつそれを減らしていかなくてはならないのです。

では、どうすれうば溜まっているものを減らせるのでしょうか。

感情のやりとりで余白を作れる

溜まっている感情を軽減させられたら心の余白ができます。余白ができれば余裕のある思考ができ、よい循環を作る余地が生まれます。

余白をつくるためには、感情を誰かとやり取りすることが有効です。感情のやり取りにより、相手のネガティブ感情を減らすことができるのです。

ところが、感情のやり取りで余白を作るのは言うほど簡単ではありません。結果的にネガティブな感情が増えて余白を減らしてしまうこともあり、患者さんを相手にするときは慎重に対応しなくてはなりません。

感情のやり取りは、非常に複雑です。「こちらがポジティブ感情を出せば、相手にポジティブ感情が生まれる」というような単純なものではありません。

例えば、Aさんが「心配だ」「困っている」などのネガティブ感情を出した場合、Bさんが気持ちを理解でき、余裕のある状態であれば「助けてあげたい」「声をかけたい」などポジティブな感情が生まれます。ところが、さっぱり理解できないことなら、ポジティブな感情は生まれず、むしろ「聞きたくない」といったネガティブ感情が生まれるかもしれません。

Aさんがアドバイスなどをする場合も、Bさんがいい印象を受ければポジティブ感情が増え、批判されていると感じたらネガティブ感情が増えます。アドバイスをもらっても場合によって嬉しい時と嫌な場合がある。それは、どんな人にも覚えがあるのではないでしょうか。

「共感」によって余白を作っていく

相手の捉え方次第なので、感情のやり取りは難しいもの。ただし、相手のポジティブ感情を増やしたり、余白を作ったりする能力をスキルアップして、精度を高めていくことができます。

関係性を近づけるのも遠ざけるのも、感情のやり取りの仕方次第。そこでキーになるのが「共感」です。

例えば、相手がつらいと思っている状況を説明したときに「つらいよね」と声をかけると、相手は「わかってもらえた」と共感を覚えます。その結果、ネガティブ感情が減って心に余白ができるのです。一方で、つらくない時に「つらいよね」と声をかけると、相手は「わかってくれていない」と思い、ネガティブ感情が増えるかもしれません。

共感を得ようとした言葉が、逆に相手を遠ざけてしまう。そういった間違いを減らすため、医療者は共感スキルを上げることが求められます。

僕はコツをつかみ始めてから、対話や質問を通して相手の心に溜まっているものを推測したり、仮説を立てて汲み取ったりしていくことがとても好きになりました。最初は難しいかもしれませんが、そうして相手の手助けをすることが医療者の仕事の醍醐味なのかもしれません。


話し手:坂本岳之
ライティング:栃尾江美
カバーイラスト:金子アユミ

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