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精神医学に基づいた心のケアをするときに大切にしていること

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「イラっとするのは自分が悪い」ではなく、相手の不調を知るきっかけのひとつ

「イラっとするのは自分が悪い」ではなく、相手の不調を知るきっかけのひとつ

医療者として患者さんと関わっているとき、イラっとすることはありませんか。

同じことを何度も繰り返し話してきたり、同じことでナースコールが何度も鳴ったり、薬を飲んだばかりなのに「眠れないから薬ちょうだい」と言われたり……。

そんなことが続くと「また?」と、ネガティブな感情になってしまいます。

そんなとき、「医療者として、患者さんにネガティブな感情を持つのはよくない」と捉えてしまう人が多いようで

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話の長い患者さんには「今は5分しか時間がない」とあらかじめ伝える

話の長い患者さんには「今は5分しか時間がない」とあらかじめ伝える

病院で働いている医療者なら、通りすがりに話しかけられ、そのまま話し込まれてしまった経験があるのではないでしょうか?

話があっちに行ったりこっちに行ったり、そうかと思うと同じ内容を繰り返したり……。30分から1時間も、ひとりの医療者を捕まえて話し続ける方もいます。

雑談ならまだいいものの、その行動が患者さんの不安から来ていて、その不安を何とか医療者に伝えたい、と思っている場合もあります。本人が、

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「誰も信じられない」状態は、三項関係を使ってほぐしていく

「誰も信じられない」状態は、三項関係を使ってほぐしていく

医療者として働いていると、患者さん自身が希望して治療に来たにもかかわらず、「治療を受けたくない」と言ってるかのような態度をとられた経験が1度はあるのではないでしょうか。

僕が精神科で働いていた頃を思い出すと、何度もそういった経験がありました。モヤモヤしたり困惑したりして、難しさを感じていました。

長年働く中で、そういう態度の背景には「誰も信じられない」という思いがあることに気付きました。精神的

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いっぱいになった感情を減らして、心の余白を作る必要がある

いっぱいになった感情を減らして、心の余白を作る必要がある

医療者が患者に向き合うとき、僕がどのようにしているか。僕の考える心の仕組みをお伝えします。僕はこれがわかってから、格段にコミュニケーションしやすくなりました。

心の中は、思考と感情に分けられます。思考は行動につながり、意識的なもの。感情は身体反応につながり、無意識的なものです。思考が行動をつかさどり、感情が身体反応の一部をつかさどっていると考えます。

「感情をコントロールしよう」とよく言われま

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言葉の定義は人それぞれ。お互いの辞書の違いを知る

言葉の定義は人それぞれ。お互いの辞書の違いを知る

僕はよく、医療関係者向けセミナーなどでお話しさせていただく機会があります。そのひとつに、精神科の看護師だった経験を活かしたコミュニケーションスキルの話があります。

まず話すのは、「言葉の辞書」の話。同じ日本語を話しているように見えて、僕とあなたとは言葉の定義が違うのです。医療者が患者とコミュニケーションを取る際、言葉の定義が違うと、お互いの意思疎通ができていないことになります。伝えたい内容がずれ

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相手との関係性で答えをつくる~正解のない問題の解き方(4)~

相手との関係性で答えをつくる~正解のない問題の解き方(4)~

「自分で解決できなければ、誰かに頼ればいいんです」と話す坂本岳之さん。上司や同僚ではない安心・安全な第三者に感情を表出できる場である「心の保健室」の活動などで、様々な人の悩みに向き合ってきました。

世の中にある正解のない問題を解決している人たちに話を伺う「正解のない問題の解き方シリーズ」。第四弾は、坂本さんに他人や自分の悩みに向き合う際に大切にしていることを伺いました。

初対面でも安心できる空

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話が長い患者さんへの関わり方

話が長い患者さんへの関わり方

先日行った「医療者向け:認知行動療法 基礎講座」後の質疑応答の一部をお伝えします。

<<質問>>

いつも話が止まらない患者さんと関わる時の、話の切り方をどうすればいいか。上手いやり方がありますか?

<<応答>>

話を聞いてあげたいのに、他の患者さんへの関わりや業務などで、なかなか時間が取れずにとても歯がゆい思いをすることってありますよね。

話が長い患者さんと関わっていて、話がどんどん長く

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看護はアートか、サイエンスか。

看護はアートか、サイエンスか。

過去のUSBメモリの整理をしていたら「看護はアートか、サイエンスか。」という2011年のWord文章があった。
フェイスブックに投稿しようとして、長すぎて結局投稿をやめたもののようでした。

何でそんなに教科書を読んだり、論文を検索しているのか?

とよく同僚から不思議がられていました。

それは、きっと自信がない中で、どうやって患者さんのための努力を続けられるかを自分なりに考えた結果だったんだと

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精神的な痛みをなくすことはできるのか?「精神的な痛みをケアする」とは。

精神的な痛みをなくすことはできるのか?「精神的な痛みをケアする」とは。

がん専門看護師をしている先輩と話していたときに、患者さんと関わる時に大切にしていることは、この3つだという点が共通していて、とても盛り上がりました。

①説明したことに満足しない。
 理解度や実際にできそうかの確認をしていないのは、
 説明したことにならない。

②退院後にどう生きるかを共に考え、調整するのが看護師の役割。

③話し合いの中心は患者さん。

この3つの視点から精神科でやっている治療

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依存的な人の自己肯定感を上げるには?実は依存的な人は誰よりも幸せに近い?

依存的な人の自己肯定感を上げるには?実は依存的な人は誰よりも幸せに近い?

自己肯定感が低くて、依存が強い人にどうやって関わるかはとても大変。
ついつい何かしてあげたくなって疲れてしまうから。
そんな人の自己肯定感が少しでもよくなるためにはどうしていくか。

①依存してくる人の「全体像」を知り、依存に巻き込まれない
②依存できる人は、「人生を幸せに生きる」ことに近い?

という2点の視点から見てみます。

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自分のイライラは相手を助ける大切なサイン

自分のイライラは相手を助ける大切なサイン

精神科で働いている時、自分の感情をどうやって対話に活用していたかを書いていこうと思います。

精神科の患者さんと関わっていると、
すごくイライラしたり、悲しくなったり、モヤモヤしたり、いろんなネガティブな感情を感じることは少なくありません。

実際に現場で働いている医療者や、実習に来ている学生、そして家族に、詳しく話を聞いていくと、

「実はそうなんです。イライラしたりすることが実はあります。親だ

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ただ、淡々と「人は信じて良いかもしれない」を学習する

ただ、淡々と「人は信じて良いかもしれない」を学習する

「誰も信じられない」
「自分のことを信じてくれる人はいない」
「だから生きている意味がない、死にたい」

僕は、精神科病棟で働いていたのだけど、
こんな風に生きづらさを抱える人が精神科病棟には多く入院していました。

そんな苦しみを感じている人たちとの精神科病棟での入院中の対話の中で
僕が大切にしていたことを改めて書いてみようと思う。

人を信じられないし、自分のことを信じてくれる人もいない、

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