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無限に増える孫という名の推し

友達に誘われ、ミュージカル『テニスの王子様』(以下テニミュ)を初めて観たのは、2011年の夏だった。2.5次元という言葉は当時から存在していたが、一般には馴染みのなかったころだ。

正直、まったく付き合いのつもりで行ったはずだったのに、帰りは物販の列に並んで生写真を買っていた。直後公式ファンクラブに入会し、同年開催されたライブ(ドリライ)には神戸公演のため遠征(いま思うとよく当たったなと思うくらい倍率が高い)。それからは各公演2〜3回通うくらいが当たり前になっている。ひとに話すと「ファンクラブ…?」とその時点で言葉をなくされるけれど、全公演通うひとさえ珍しくない舞台という沼において、自分なぞライトなほうだと思う。

テニミュは1公演につき20人以上のキャストが出演する。観劇が終わるたびに新しく知った俳優さんのTwitterやInstagramをフォローするので、タイムラインは俳優さんで埋めつくされる。出演情報を見ると、その後の活躍もどこまでも追っていきたくなってしまうから、財布の紐はいくら絞めても緩んでいくばかり。

最初のうちは同年代の俳優さんもいたが、いまとなっては一回りくらい離れている場合もざらにある。そうすると、もはや「かっこいい」というよりかは、純粋に応援したい感情だけになってきた。いや、もちろんかっこいいのだ。もれなく麗しく顔がいいのだけれど、気持ちとしては親戚のおばちゃんになってしまう。友達とはお互いの推しのことを、「あなたのお孫さん」「うちの孫」と呼んでいる。

推しとはいった手前、恥ずかしながら…特定の誰かのファンクラブには入っていない。孫が多すぎるがゆえだ…。推したい俳優さんがまんべんなくて迷ってしまうひと、いるんじゃないだろうか(いてほしい)。片っ端からファンクラブに入れるくらい景気がよくて潔いひとには、ちょっと憧れてしまう。

いったい誰のファンクラブへ入会するか。悩むなか、入ったらもれなくハッピーになること間違いなしと踏んでいるのは加藤将さんだ。テニミュでは長身を生かしてクールな乾先輩(主人公のチームの3年生。データを重んじる頭脳派)を演じていた加藤さんだが、共演者への愛情を惜しげもなく全開にし、満面の笑みを見せてくれる様子は完全にゴールデンレトリバーだった。彼のファンは「加藤将の親戚」と名付けられている。よくわかっている。ファンミーティングの名前も「加藤将の家族会議」。よくわかっている。

顔面からすれば、あのイケメン俳優さんたちが私の親戚であるはずがない。百歩譲ってご近所さんの親戚の親戚くらい遠い縁だけど、いい子なんですよ!と大きな声で自慢したくなる。推しってたぶん、そういう存在だ。

公演やイベントの中止に落ち込むことも多い近ごろ。彼らは配信やSNSを通して、元気な姿を見せてくれている。ドラマやバラエティに出演する俳優さんも増えた。みなさんがいつまでも大好きな仕事をできるように、いまは家を劇場だと思って応援している。



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