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アプリで店内マップを実現する難しさと、それでもやる理由の考察

メグリでプランニングを担当している篠キチです。

ちょっとマニアックなテーマな感じしますが、OMOとかユニファイドコマースとか考えるときに重要な要素かな? と個人的には思ってるので、ちょっと長いですがお付き合いください。

OMOってなに? って方は、とりあえずこのあたりの本を読むのがいいかなと思います


店内マップをアプリで実現している国内外の事例

数年前から北米の小売業界では、アプリにインストアモード(店内モード)を搭載する事例が増えています。

一番有名なのはウォルマートさんで、2016年頃には既に店内の商品の棚位置を検索したり、商品のバーコードをスキャンして商品情報などを調べられる機能があったようです。


早くから店内マップの機能が備わってるのは、北米の店舗がデカすぎて必要にかられたせい(推測)もありそうですが、最近は日本でもニトリさんやカインズさんのアプリで店内マップ機能が実装されています。

ニトリさんのアプリのキャプチャ
商品のある場所が赤枠で表示されます
Copyright NITORI.


カインズさんのアプリのキャプチャ
商品のある場所がマーカーで示されています
© CAINZ


弊社でアプリ開発をお手伝いさせていただいているハンズさんのアプリにも『ドコアルノ』という商品売り場を探す機能が、店内モードから利用できるようになっています

ハンズさんのアプリ上で『ドコアルノ』を開いたときのキャプチャ
© Hands Inc.


実現のハードルは高い

ウォルマート同様に今回日本での事例として取り上げた3つの店舗はどれも取扱商品が多く、店内マップで売り場を教えてくれると非常に便利です。

ただ、売り場が赤枠で示されたこれらの売り場MAPは、僕の推測ですがおそらく単純なフロアマップ画像に赤枠を手書きしたものです。

そしておそらく全店舗の全棚位置分の画像を1枚1枚、手作業で用意しているんじゃないかと思います。それをシステム的に1枚ずつ商品カテゴリ等の情報に紐付けて、表示できるようにしている。

もうそれだけで気の遠くなるような話です。
ハンズさんは全国に2022年11月現在で約90店舗、ニトリさんにいたっては2022年2月現在で約800店舗もあるのです。その店舗の大半の商品の棚位置画像として赤枠をつけたものを1つ1つ用意していく…おそらく万単位の画像を用意する必要があるのではないでしょうか。

さらに棚位置は変わることもよくあります。そのたびに全部更新しなくてはいけない。お客様にとって役立つ機能ではありますが、提供するにあたっては運営側に相当な覚悟が必要です。

カインズさんのアプリの場合は少し違っていて、店内マップ上のどこにあるかマーカーを表示しています。
赤枠塗る作業は不要ですが、単なる画像と思われるマップ上のどの位置にマーカーを出すかというアプリの店内マップ固有の座標情報を、やはり全店舗の全棚位置分だけデータを用意しないといけないですし、変更があればそのたびに更新必要です。同じくらい大変であることは容易に想像がつきます


建物内で正確な現在位置を知るのは難しい

ただでさえ実現と維持に大変な労力を要する店内マップ機能ですが、これだけ苦労してもまだ実現できていない重要な機能があります。

それはお客様の現在位置を表示することです。あって当然のようにも感じる機能ですが、紹介した3社とも実現できていません。

これは建物の中にいるときに正確な位置を割り出すことが、現在の技術ではかなりハードルが高いからで、アプリの作り込みが足りないとかそういう問題ではありません


2023/3/9追記


カインズさんは店内での現在位置表示を一部店舗で開始したようです。(日経xTECHより)


スマホが地図アプリ等で正確な現在地を表示できるのは主にGPS(グローバル・ポジショニング・システム) のおかげですが、GPSは複数のGPS人工衛星からの信号を受け取ることで位置を算出する仕組みなので、屋根や天井でGPSからの信号が遮られてしまう建物内に入ってしまうと基本的に機能しません

とはいえGoogleMAPやAppleMAPSには屋内マップの機能がありますし、建物内を歩いていても現在位置は変化しますが、これはGPS以外の機能を使って現在位置を推測したり補正することで実現しています。

例えばiPhoneの場合はWi-Fi、Bluetooth、携帯電話の基地局の情報を使っておおよその位置情報を推測してくれますし、端末に搭載されているジャイロセンサー等を使って端末がどの方角を向いているか、どのくらいの速さでどのくらいの距離を移動したかはある程度わかるので、それを使ってGPSが使えないときでも地図上で位置を移動させることができます。

iPhoneの位置情報サービスの設定画面のキャプチャ(一部)
GPS以外にも様々な情報を駆使して位置情報を割り出していることがわかる

ただ、Wi-FiやBluetooth、基地局の情報からわかる位置の精度はGPSに比べてかなり落ちますし、センサーを使った移動量の算出はGPSが使えない時間が長くなればなるほど誤差が蓄積されていくので、どうしてもGPSのような精度はでません。


Wi-FiやBluetoothを使った屋内位置計測はどうか

GPSは3基(理想は4基以上)の衛星からの信号を受信することで位置を割り出しますが、同様に3台以上のWi-FiアクセスポイントやBluetoothビーコンを使って位置を割り出す技術もあります。

ただ、これらは店内のどのエリアにどのくらい滞在してるかとか、店内に入ったことを捕捉するなどの用途の方がメインで、屋内での正確な位置情報を割り出す用途では、僕は見かけたことがありません。

座標としての位置を計測するのとは少し違いますが、Bluetoothのビーコンを店内各所に配置すれば、特定のビーコンの付近にいることはわかります。

例えばtangerine社のStore360 UXはBluetoothのビーコンを使って、売り場別の立ち寄り量や人流計測を可能にしています。このデータを活用して店内マップ上におおよその現在地を反映させることはできるかもしれません。


いずれにしろ基本的にWi-Fiの場合は電波強度、Bluetoothの場合は仕様上定義されているおおまかな距離(近い・遠い・至近)を元にしているので、精度高く位置を割り出すのは用途が違うかなというのが個人的な感想です


本命? AirTagにも使われているUWB

iPhoneユーザーの方の中には、数年前に発売されたAirTagを使われている方もいらっしゃるかもしれません。

実はこの製品にも使われているUWB(Ultra-Wide Band:超広帯域無線通信)という技術が、高精度な屋内位置計測を実現する切り札となるのでは? と言われています。

現在、Apple製品にはUWB対応のチップ搭載が進んでおり、iPhone11以降(SEシリーズを除く) の製品に搭載されていることはAppleのWebサイトにも情報があります

先日のサッカーワールドカップでは「三苫の1mm」としてVAR判定が話題になりましたが、この大会で様々導入されたハイテクの1つであるセンサー搭載のサッカーボールにもUWBは採用されています。

このUWBを用いると数十cm単位の精度で屋内での位置測位が可能と言われています。もともとは軍事技術として使われていたものの転用で20年以上の運用実績があるので安定していますし、コストも比較的抑えられるのでは? と期待されています

ただ、実現するにはUWBの発信機を屋内に一定間隔で張り巡らせる必要があり、この手間と維持管理コストはネックになりそうです。
またApple主導でiPhone関連の製品にはUWBが普及しつつありますが、Androidのほうはサムスン製の端末にUWBが導入されているものの、広く普及するかどうかはまだ未知数と言えるかもしれません。 


来店したお客様の行動を知りたい

ここまで店内マップの実現についていろいろと書いてきましたが、技術的にも労力的にもまだまだ普及のハードルが高いことはおわかりいただけたと思います。
では、それでも各社が店内マップをアプリに組み込もうとするのはなぜなのでしょうか。

もちろんそれぞれの思惑はあると思いますが、個人的に一番大きいと思ってるのは、購買しなかったお客様の行動把握につながるという点ではないかと思っています。


小売業ではPOSの購買データを使った分析については古くから行っていますし、ID-POSを使うことで「誰がどんな商品を買ったか」ということはかなり細かく知ることができます

ただデータを取るのが非常に難しいのが、リアル店舗に来店したのに買わなかったお客様の情報です。

自分自身の買い物行動を考えたときに、お店に行ったけど商品を見ただけで買わなかったことは1回や2回ではありません。むしろそのほうが多い気がします。

こういう行動を取ったお客様が店内で何を見て、何を手に取って、試食や試着をしたのか、満足してorガッカリして帰られたのか、という情報はお店には全く残りません。せいぜい接客をしたスタッフの方の記憶に残っている程度でしょう。

そのあとECで買ったりしたとしても、いま企業側が持ってるデータでは突然ECに来て、1発で商品を指名検索して、何の迷いもなく購入したように見えるかもしれません。
でも実際には来店していて、実物を手に取ってみて、もしかしたら接客したスタッフのアドバイスが後押しになっていたかもしれないのです。

OMOとかユニファイドコマースと言われるような言葉が飛び交う世の中で、このリアル店舗内での顧客行動把握は、実は大きなデータ欠落点になっています

店内マップの提供だけでこれが解決するわけではありませんが、このエアポケットとなっている来店時の顧客行動データを埋める工夫として、まずアプリを店内で起動してもらう理由付けが必要になってきます。店内マップはその1つになり得るのでは? と思います。

他にもウォルマートアプリにある店舗商品のバーコードスキャンで商品情報を見ることができる機能や、tangerine社が提供しているStore360 UXのようなサービスなど、店舗でのアプリ活用法を考えていくことがこれからアプリに求められる重要なポイントになると個人的には思っていて、MGReとしてもこの点に力を入れていきたいと考えています。


こういった工夫をこらしたアプリ開発にご興味ありましたら、お気軽にお問い合わせください。カスタマイズ可能なアプリプラットフォーム『MGRe(メグリ)』だからできることが多くあると思いますし、企画段階からのご相談にもお応えできると思います。


タイトル画像はぱくたそさんの「山盛りのフルーツが並ぶ海外のスーパーマーケットのフリー素材」を使わせていただきました


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