「有り無し」の感覚は非常に微妙なものなので、人にわかってもらうためには、まず自分の中でクリアにしたほうがいい。

※この記事には、ゲーム「死印」のネタバレが若干含まれます。

今、switch版「死印」をやっている。
「面白いが、どうもこのシナリオ苦手だな」
そう思うのは、子供が怪異の犠牲になるからかと思っていた。

だがよく考えてみれば、自分が好きなコンテンツで子供が死ぬ話などいくらでもある。
単純に「子供が死ぬから嫌」なわけではないのだ。
一体何が「苦手」の琴線に触れるのか。
少し考えてみた。

①大人(主人公)がいるのに大人ではなく子供が死ぬ
②それを大人である主人公が『怪異が相手だから仕方がない』と諦めている
③その主人公が自分(プレイヤー)の分身である

この三つの条件が重なっているから、自分の感覚は「ナシ」と叫ぶ。この三つの条件のうちひとつでも外れていれば、特に気にしなかっただろう。

だがもし、他の類似のコンテンツと比較せずに「死印」だけで判断を下した場合、「子供が死ぬから駄目だ」と思っていたかもしれない。


人の感覚は本当に微細だ。少しズレただけで、「刺さる刺さらない」はおろか「有り無し」「快・不快」が百八十度変わることもある。

前回書いたこの記事も、「バクマン。」のサイコー×亜豆は何故該当しないのか、と言われれば、説明しても他の人には(ヘキが被っている人以外は)「それとこれの何が違うのか?」としか思えないだろう。

「お気持ち」ならぬ「お感覚」である。

「お気持ち」も「お感覚」も、自分自身にとっては「リアル」であり「(自分にとっては)正しい」と実感するものだ。
今自分が「実際に感じているもの」だから、「確かに存在するもの」と思いがちだ。

この記事で書いたように、特に性的なことや残酷描写、つまり一般的に社会では公にすることを良しとされていないジャンルの描写に関しては、「自分の感じていることは正しい。何故なら、実際に自分は感じているから」と思ってしまいがちだ。

上記の記事で触れたように、創作における「性に関する特定のシチュエーション」のうち何故他人が描くものには嫌悪を示し、自分が描くものは良しとするのかは、同じように見える描写でも本人の中では恐らく非常に微細な様々な条件があるのだと思う。
しかしその「条件」は当然のことながら他人にはわからないので、矛盾にしか見えない。

自分の好むものは細かく把握できるからわからない他人がおかしいと思い、自分が不快に思うものはおおざっぱに捉えて、それを好む人を嫌悪しがちになってしまう。
性描写や残酷描写などセンシティブな描写は多くの場合、そう見てしまいがちなのだ、という前提に立たないと、「自分の描くエログロはいいエログロで、他人の描くエログロは悪いエログロ」という矛盾した言動が飛び出てくる。

性描写や残酷描写は、多くの場合、それを好まない人の不快に触れやすいものなので、他人の好みを自分の嫌悪で判定して「悪いもの」と判断しがちだ。

自分も何も考えずに「『死印』は子供が死ぬところがなあ」と不快に基づいて雑に話せば、「『蠅の王』が好きなんじゃなかったっけ?」という突っ込みは免れないだろう。

それを「『蠅の王』は人の内部に眠る『悪』を描いている文学だからいいのだ」というような妙な理屈を捻り出せば、「ゲームは駄目で小説ならいいのか。何故か?」「そのテーマを誰が判断するのか?」と話がますますこじれる。

「死印」と「蠅の王」の子供が死ぬ描写の何が違うかと言えば、「側にいる大人が無力で子供が死ぬことに葛藤がない」ことが「感覚として嫌」なだけなのだが、それを「自分のみの感覚である」と認めず「自分が感じているのだから万人にとって正しいこと」と思ってしまうと、それを補強するような理屈を後付けで考え出してしまう。

しかしあくまで「感覚」を正当化するためだけの後付けに過ぎないので、「感覚」を共有していない第三者から見ると矛盾したりおかしく見える。

そういうことを免れるためには、「感情や感覚の問題」だとしても……いやだからこそ、「何が自分はいいのか、嫌なのか」をなるべく正確に把握することが大切だと思う。
意外と考え出すと、自分でも「こんなことを考えていたのか」「これが嫌だと思っていたが、そうではなくこちらが気になっていたのか」と思うことは多い。

こうやって文章を書いて語ることが好きなのは、ひとつにはこうやってどこまでも自分の感覚や感情を自分自身で解像していくことが出来る点にある。

そうやって自分の感覚や感情を詳しく見つめて語ると、その感覚や感情を共有していない人でも「なるほど、この人はこう感じるのか」とわかってもらいやすくなるとは思うのだ。

というわけで、お館様こと産屋敷耀哉のどこがそんなに怖いのかを熱く語ってみた。


上記のことが苦手というだけで、シナリオ自体は面白い。

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