台本バラバラ事件

 最近の演劇の稽古場では、パッドで台本を読む人が増えている。
 薄くて軽くてほどよい大きさ、片手で持つのにたいへん適しているし、文字サイズの変更も一瞬で可能。稽古中に台本の変更があった際は簡単に加筆修正できる。ページレベルの変更があった場合でも、データをまるまるやりとりするだけで即完結。本当に理にかなっている。


 僕はというと、相変わらず紙の台本を使っている。
 クリップで留め、ファイルにしまっておく。稽古が始まればファイルから取り出し、クリップを外す。持っているとたまにバラバラッと数枚落としてしまうので、都度拾いあげ、ページごとに並べ直す。少なめの変更にはシャーペンで加筆して対応するが、余白が簡単に汚れるし、僕は字がきれいな方ではないので単純にパッと見の印象がよくなくなる。
 この時点で紙の良さといったら「あたたかみ」ぐらいしかなくなるが、一番の問題はページレベルの変更の時に起こる。特にホチキスの現場では10~20ページぐらいの変更はよくある。細かい言い回しに限らず、数行の大幅カットあるいは大幅追加、シーンとシーンを入れ替える、などがあれば部分的に新しい台本に更新される。そう、部分的に、である。間の数ページの古い方を捨て、新しいものを入れる――通称「がっちゃんこ」。
 このがっちゃんこ、スムーズにいったためしがない。ページ数がずれるからだ。
 仮に、もともとは10~15ページだったとしよう。しかしいろんな変更の末、新しい方では9~16ページになった。この場合どうするか。まずは古い10~15を捨てる。捨てていいものか判断しかねるが(もしかしたら必要になってくるかもしれないため)、入念な照らし合わせのうえ、捨てる。ここでけっこう時間を使う。
 できた空白に、新しい9~16を差し込む。そうすると、「9」と「16」がそれぞれ二枚ずつ存在することになる。なので「9-1」「9-2」「16-1」「16-2」と数字を振り直す。さらに言えば、「16-1」の最後と「16-2」の最初に、ページずれの関係で全く同じ数行が存在することもある。その場合はどちらかに打ち消し線を引く。また見た目が汚くなる。

 絶対にパッドを使うべきだ。
 そう思いながら、はや幾公演。

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