俳優の孤独

 孤独な俳優が好きだ。
 「孤独」というのは、友人や恋人や家族がいないとか、応援してくれる人がいないとか、誰にも相手にされないとか、そういう寂しい意味ではない。
 俳優の孤独とは言い換えるなら、己のやるべきことを己だけでいつでも引き受けられる状態、という感じだろうか。

 というか、俳優はそもそも孤独だと思う。
 役のポジティブな部分だけでなく、暗部や秘部や恥部も一手に担う仕事だ。それはつまり、演じるうえでのヒントとなるように、俳優個人の暗部や秘部や恥部もいったん引き出しの奥から引っ張り出してこなくてはいけない、ということである。この作業は基本的に自分ひとりでしかできない。深いところまでも、自分ひとりでたどり着かなくてはならない。だから誰も助けてくれない。というか、他人だから助けることはできない。
 そしてそれを、時に真摯に、時に美しく、時に汚く、時に面白おかしくアウトプットする必要がある。それだけの覚悟と技術があるか。誰にもできないオリジナルの方法で。
 常に試されている。だから孤独なのである。

 別に普段からずっとそんなことを考えて過ごしているわけではないけれど、ふと、「そういう俳優が好きだなあ」と思った。だから僕もそういう孤独な俳優でありたいと思う。その役はその時しか演じられないから。

(546字)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?