ヤク中

 演劇をやっていると心の健康によい。というのは僕個人の考え。

 人には「個」というものがあって、僕にももちろんあるのだけど、他人が思うほど自分は自分の「個」には気づきにくい。言語化はギリできることもある。でも芯を捉えるのは難しい。
 僕の肌感覚だと、表現者ほど自分の「個」のあり方に敏感で、かつ過小評価な人が多い。他人と比べて凹むこともある。僕がそうだからかもしれない。僕は僕の「個」を未だに見つけられずにいるし、あったとしてもそこに面白味を見出せない。

 ちなみにそのことに対しては、別にもう悲観はしていない。それでも時に自分を見失うことがあったとして、その時は役に助けられてきた。
 自分ではない誰かの人生を、たった2時間ほど生きるということが、僕を助けてくれる。自分の演じる役から、学びや、気づきや、優越感または劣等感などを得る。好きな役もあれば嫌いな役もある。何とも思わない役もある。でもどんな時も、演じるにあたっていろんなことを考える時間がある。そして、そこから見えてくる自分の「個」がある。
 時に寄りかかりながら、時に適度な距離を取りながら、自分の体を通して考える彼らとの数週間に、僕は幾度となく助けられてきた。
 他人になることで自分に近づいている。そんな感覚。

 演劇をやっていると健康によい。僕に役をください。役から離れた時が一番さみしいので。

(576字)

 

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