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第2回:テック系ベンチャー企業が資金調達の際に陥る技術信仰のワナとは? ベンチャー企業経営~虎の巻~

こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。
ベンチャー企業の定型的なお悩みや共通する課題についての解決策についてご案内する『ベンチャー企業経営~虎の巻~』
第2回は、技術系の大学発ベンチャーやテクノロジー系ベンチャーが陥りやすい、技術優先ともいえる、「技術信仰」についてご説明したいと思います。

ベンチャー企業は独創的なアイディアと、それを事業化する溢れんばかりのバイタリティで事業推進してゆくことが大前提です。
しかし、時として、自分たちが開発する技術に陶酔し、「市場」が見えなくなってしまい、想定通りの事業計画を遂行できなくなってしまうことが多々あります。

ここでは、常に市場を見る。
よい商品であっても、戦略なくしては売れない。
ということを強くアピールしてゆきたいと考えています。

≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。

技術信仰に陥るプロセス

技術信仰には決まった定義はありませんが、ここでは、「自社の技術力に盲目的に陶酔し、経営戦略やマーケティング戦略、サプライチェーン戦略が構築できていない状況」と定義したいと思います。

ベンチャー企業には技術力やマーケティング力など、何らかの分野で他とは違った「尖った」独自性が存在する必要があります。
しかし、ハイテクな商品でなくてもマーケティングに趣向を凝らした商品は売れます。
一方で、どんなに機能面が優れた「良い商品」であっても、販売戦略やマーケティング戦略なくしては市場に受け入れられることはありません。

テック系企業と呼ばれる、技術力を売りにしている企業に時としてあるのが、開発力や製品力に自信があるばかりに、販売戦略やマーケティング戦略の深堀りをしないため、まったく商品が売れない状況です。

コンサルティングでお話しを伺うベンチャー企業の中に、技術力や製品の優位性は積極的にアピールされるものの、その製品をどのように「作り」、そしてどのように「売る」のか?という点について全く考えられていない企業があります。

盲目的に技術力に陶酔しているがばかりに、「こんな素晴らしい技術力を持った製品なんだから、資金調達して量産すれば売れる!」と主張されます。
そういった経営者に、「どのように量産するのですか?」、「価格設定はどうされるのですか?」、「原価水準はどの程度ですか?」、「どのような販路を使って販売するのですか?」と尋ねても、具体的な回答が返ってこないことがあります。

正直このような状況だと、投資のプロであるVCの厳しい質問に耐えることができずに資金調達することはできませんし、仮に資金調達できたとしても、生産することができません。
また、市場の声を反映した価格設定がなされていないですし、販路も整備されていないので売れません。

こういった技術力への盲目的な陶酔を、気づいた段階ですぐに改め、スピーディな軌道修正ができれば良いのですが、得てして軌道修正できずに、「なんでこんな素晴らしい技術なのに売れないのだろう?」、「この素晴らしい技術に投資をしない投資家ってのは何もわかっていないのではないか?」という疑問を抱きつつ、ビジネスの場から消え去ってゆくことになります。

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技術信仰のみの裏付けで作成された事業計画では資金調達は難しい

先ほど簡単に投資のプロであるVCからの資金調達が難しいと書きました。
ベンチャー企業の成長資金を手元資金で全て賄うことは難しいので、何らかの資金調達を行うことになります。

技術信仰のみに支配されたベンチャー企業でも、シードラウンドと呼ばれる草創期であれば、熱い情熱と、机上の空論に近い製品化の計画で少額の資金調達はできるかもしれません。
また、銀行融資においても、初期の創業融資の段階であれば、もしかしたら融資を獲得することができるかもしれません。

しかし、初期の資金調達後、しっかりとした経営戦略やマーケティング戦略、販売戦略が構築され、それが事業計画としてロジカルに説明できるものができていない状況では製品上市直前のラウンドなど(プレシリーズAと呼ばれるラウンドあたりから)では資金調達は難しいと思われます。

草創期であれば投資家や銀行は、ベンチャーの夢に思いを託すわけですが、製品化が現実的となってきた段階においては、対象先がどのように収益化を実現し、VCなどが投資した資金がいつ、どのように回収できるか?といった具体的な事項に興味が向けられます。
また、銀行であっても、融資した資金が決められた条件通りに回収できるか?にといった点に興味が向けられます。

その状況において、しっかりとした戦略に裏付けされていない事業計画を持って行っても、「これで売れるんですか?」、「どのように売るんですか?」という話になり、出資や融資には結びつかないものと思われます。

技術に対する自信とともに、マーケットインの発想で戦略策定を!

技術に対する自信を捨てなさい!と言っているわけではありません。
冒頭ご説明の通り、技術の優位性を含む、何らかの「尖り」がないベンチャー企業は成功しません。
従って、技術開発に係る研究はトコトン納得のゆくまで行う必要があります。

一方で、技術系の方々が得意としない(ことが多い)「戦略」についてもしっかりと目を向けてくださいとお伝えしたいと思います。

そして戦略策定の際に大切なのは、「市場」をしっかりと見つめることです。

企業の目的である売上・収益の獲得は、市場で製品が「売れる」ことから発生します。
従って、モノを買うのは市場であり、買うかどうか決めるのも市場です。

価格設定においても、「こんなに素晴らしい製品なんだから●●円だ!」とプロダクトアウトの発想で決めるのではなく、「市場で売れる価格はいくらか?」という視点で価格設定を行い、製品を製造するための原価を何としても市場で売れる価格の範囲内に収める努力を不断に行うことが肝要です。
決して、この製品を作るのに●●円かかるので、●●円に▲▲円を加えた■■円で売ろう、という考え方はしないでください。
価格は市場が決めるものです。

市場で◎◎円で売れる商品で、諸々の原価やコストを指しい引いて利益が出ないのであれば、原価やコストを更に抑えるか、販売価格を上乗せできる何らかの付加価値を模索するしかなく、それができないのであれば、その製品売れませんので、販売をやめた方がよいと思います。

そのような経営戦略、マーケティング戦略、販売戦略、サプライチェーン戦略が整合的に検討された事業計画で、かつそれに対して投資家や金融機関からの信頼が得られれば、投資や融資をうけることができ、事業発展のステップを踏めるものと思われます。

重要なのは、市場をとらえた戦略策定であり、決して信仰する技術力に捕らわれない考え方を貫徹することです。

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まとめ

ここでは技術に対する自信があまりにも強いばかりに技術優先の戦略で運営してしまっている企業がどうしても多く、せっかくの素晴らしい技術が日の目を見ないまま消え去ってしまっている事態に歯止めをかけたく、この記事を書いてみました。

テック系ベンチャーに技術力が備わっているのは必須条件で、それなくして成功はありえません。
ただ、少しでも経営戦略やマーケティング戦略、サプライチェーン戦略といった点に目を向け、現経営メンバーではその戦略立案と実践が難しいのであれば、外部からその分野に長けた人材を招聘してでも戦略を推進する必要があります。

決して技術に陶酔せずに、常に現実的に市場を見つめ、市場の期待に少しでも応えられるビジネス運営をしていただきたく思います。

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