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第4回:次回資金調達までにベンチャー企業がすべきこと ベンチャー企業経営~虎の巻~

こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。
ベンチャー企業経営におけるよくある問題点や、課題についてご紹介している本連載。
今回は、晴れて資金調達を完了したベンチャー企業が次回ラウンドまでにすべきこと、という点についてお話したいと思っています。

資金調達を完了すると、「おめでとう!」というメッセージがSNSなどを介して起業家に対して送られているケースが散見されますが、資金調達は次なる事業成長のスタートラインに立てただけで、資金調達実務自体の労はねぎらいたいとは思うものの、「おめでとう!」とは思えない、わたくしです(笑)。

ここで書かせていただくことは、資金調達完了に酔いしれるのではなく、完了したその瞬間から肝に銘じておいていただきたいことばかりです。

≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。

資金調達は目的ではない!次回資金調達に向けて動き始めよう!

先ほども申し上げましたが、資金調達は目的ではなく、次なる成長機会のスタートラインに立っただけです。
ゴールに向けて成長機会はフェーズを変えてゆきますが、完了した資金調達で投資家に約束した事業計画必達のために動き出さなくてはなりません。

今、事業計画は約束事と言いましたが、よく資金調達のために「盛った」計画を策定し、それをもって資金調達するベンチャー企業をみます。
確かにベンチャー企業を取り巻く環境は常に流動的で、バズれば事業計画の数倍の業績を実現できる一方で、少しでも前提や想定が変わってしまうと事業計画達成どころではなくなってしまうという、不安定な立ち位置であることは理解しています。

ただ、出資という資金拠出を得るために「約束」した事業計画は必ず守らなくてはなりません。
そうでないと、仮に今回のラウンドは運よく資金調達できたかもしれませんが、達成していない事業計画をもってしては、次回調達ラウンドでの調達がおぼつかなくなることは間違いありません。
要は、約束を守らなかった人は二度と信用されなくなってしまうのです。

先ほど「盛った」事業計画の話をしましたが、資金調達におけるバリュエーションは高過ぎず、低すぎずというのがポイントです。

確かに、ハイバリュエーションで多額の資金を低い持分の拠出で受けることができれば一見幸せに見えますが、一気に背丈に合わないバリュエーションで資金調達してしまったベンチャー企業は次回ラウンド時に困ってしまうことがあります。

なぜなら、今回ラウンドの投資家は基本的にダウンラウンド(バリュエーションの低下)での資金調達を容認しません。
なぜなら、市場価格のないベンチャー投資の評価額は直近ラウンドのバリュエーションで評価されることが多く、期待して出資した銘柄の評価損を会計的に行わざるを得ない状況になるからです。

したがって、バリュエーションは資本政策をしっかりと構築し、段階的にアップさせてゆくことが特に必要です。

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調達ラウンドが進むにつれて投資家の顔ぶれが変わってくる

次回ラウンドを見据えるうえで重要なことは、調達ラウンドが進むにつれて、投資家の顔ぶれが変わってくるということです。

シード期にはエンジェルや構想段階の事業計画に期待する事業会社などが、さほど詳細な精査を行わずに出資をすることが多いかと思われます。

ただ、プロダクトやサービスが開始した後のシリーズAやシリーズBとラウンドを重ねるにしたがって、投資家の顔ぶれは変わってきます。
それは、投資家にも得意とするフェーズがあることと、許容できるリスクに違いがあるからです。

ある投資家はシードからプレシリーズAあたりが得意で、リスクを大きくとるものの小口分散して出資をしてゆくかもしれませんし、ある投資家は比較的大きなお金を実績のある成熟したベンチャー企業に出資することを得意とするかもしれません。

投資家の顔ぶれが変わるということは同時に、調達に係る検討が厳格化するということでもあります。

一般的には調達ラウンドが進むにつれバリュエーションが上がってきますし、当然、今までの計画進捗といった実績があります。
それらを厳密に精査することになるので、シード期のようなノリでは資金調達は不可能となってしまいます。

特にVC(ベンチャーキャピタル)が多額の資金を出資するラウンドとなった場合、従来の事業会社やエンジェルとの折衝とは比較にならないくらい出資検討は厳格化します。

ただ、そういった厳しいVCに出資を受けること自体が、そのベンチャー企業にとっての信頼の裏付けになることですので、出資後は事業上の取引条件が良化したり、または銀行取引が格段にしやすくなったりと、想定以上の果実があります。

したがって、先ほど申し上げた、投資家との約束事である事業計画を着実に履行し、確たる実績をもって次回調達ラウンドに臨むことが必要となります。

調達ラウンド失敗の主要因は事業計画の未達

毎年数多くのベンチャーが起業されている一方で、ほぼ同数のベンチャー企業が廃業に追い込まれています。
「ほぼ」と書いたのは、実際にIPOやM&Aによる売却を達成できるベンチャー企業はほんの一握りであり、IPOやM&Aが成功だとするのであれば、失敗する確率は99%にも上るかもしれません。

廃業に追い込まれるベンチャー企業の廃業の主要因は資金繰りの行き詰まりですが、ベンチャー企業は起業当初赤字スタートであることが一般的なので、資金繰りの行き詰まり=資金調達の失敗ということになるかと思います。

では、資金調達に成功できない最大の要因は、やはり前回調達ラウンドで想定していた事業計画を着実に履行できずに投資家の信頼を失ったケースだと思われます。
ハイバリュエーションで資金調達をして、次回ラウンドでそれを上回るバリュエーションでの資金調達ができないベンチャーも、結果的にハイバリュエーションの根拠となる事業計画を達成できなかったという意味合いにおいては同じだと思います。

したがって、事業計画策定の際には、達成できる限りの最大の計画を立案し、調達したその瞬間から計画履行に向けてガムシャラに努力する必要があります。

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必要に応じた内部管理体制の充実

先ほどご説明のとおり、調達ラウンドが進むにつれて投資家の顔ぶれが変わり、そして調達に係る検討が厳格化してきます。

一般的にベンチャー起業家はプロダクトやサービスについての熱い思いがあることは間違いないのですが、一方でファイナンス面については不慣れな起業家も多いとおもわれます。

そのような場合、不慣れなファイナンス業務を起業家自らが手がけてしまうと、投資家の期待する水準のコミュニケーションが取れなくなる可能性もあり、せっかくの良質なアイディアが、説明不足により日の目を見ずに消え去らざるを得なくなってしまう可能性もあります。

そのような場合は、必要に応じて内部管理体制、特にCFO機能の強化が必要と考えられます。
n-2と呼ばれる上場目前の段階ではフルコミットのCFOの採用が必要かと思いますが、それ以前であればスポットでのCFO起用も検討する余地があると思われます。

まとめ

今回は調達ラウンドの際に提示した事業計画は投資家への「約束事」であり、ラウンド達成後はその喜びの余韻に浸る間もなく、約束した事業計画の履行に全力で取り組まないと、次回ラウンドがおぼつかなくなってしまうということをご説明しました。

ベンチャー企業を取り巻く環境は流動的で、常に変化し続けています。
変化の大きい環境を楽しみながらも、ひたむきに計画進捗に邁進してゆくことが必要だといえます。

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