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金原瑞人✖️斉藤倫 『レディオ ワン』刊行記念対談 「飛ぶ教室」未収録お蔵出し〜前編 〈動物と言葉をめぐって〉

みなさま、こんばんわん。
ぼく、DJジョンがお送りする、月曜夜九時、〈レディオ ワン〉。
先日、番組ゲストの翻訳家の金原瑞人さんと、詩人の斉藤倫さんに、新刊小説『レディオ ワン』刊行記念と銘打って、いろいろ語りあっていただきました。
対談記事が掲載された「飛ぶ教室」59号(2019年 秋)に、収録しきれなかったパートを、note限定で、前後編にわけてお送りします。
まずはその前編。それでは、秋の夜長に、どうぞお楽しみください。

(「飛ぶ教室」対談の『レディオ ワン』成立のエピソードを受けて──)

ジョン 〈言葉〉というテーマで、『レディオ ワン』ができたとうかがいました。それならあえて言葉をもたない動物を主人公にしよう、さらに、そいつに一番しゃべる仕事をさせてみようということで、犬のラジオのDJに行き着いたということでした。その「動物と言葉」について、もう少しお聞かせください。

金原 『ぼくがゆびぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』(斉藤倫 著/福音館書店)で、夏の話があって、セミはばかって言われてるだけで、ばかって言い返せないというやりとりがあります。その後で、「ぼく」が言うんですよね。「虫や動物は言葉がない。だから言葉で何かを言うことは、必ず人間が一方的になっちゃう」。そういうフレーズがあります。この部分、『レディオ ワン』につながっている気がしました。

斉藤 確かにつながってますね。子どもの本って、絵本を見ると、動物が出てきて、普通にみんなしゃべったり、人間の服着たりしてて、そこから子どもたちの読書体験っていうのは始まるんですが、あるときにしゃべらなくなるじゃないですか、YAなんかになると、しゃべる動物はいなくなってくる。『レディオ ワン』でやろうとしたのは、子ども向けや、絵本よりも少し目線の高い話を語りながら、でも動物がしゃべる話ができないかというのはあったんです。

 金原さんに今回お伺いしたかったことのひとつは、そもそもどうして動物はしゃべらなくなるか、ということなんです。

金原 こういう質問は、僕はとても得意なんです。なぜ得意かというと、知り合いがたくさんいるから聞けるの。

斉藤 ありがとうございます(笑)

金原 なんでYAになると、動物がしゃべらないのかというのは、ひこ・田中さんがしっかり書いてくれてます。

ジョン 何枚ものメモをご用意いただいてますね。

金原 ひこさんいわく、ひとつは、子どもは大きくなってくると、人間化・社会化してくるから。社会化してくると、動物はしゃべらなくなるんですって。

斉藤 ある程度、世の中がわかって、リアルに思えなくなるということですかね。

金原 また、しゃべる動物という擬人化は、それぞれの個性の前に、その動物、クマならクマ、ゾウならゾウ、ウサギならウサギの持つイメージ、人間が勝手に作ったものなんだけど、大きくイメージ付けしてあって、それによってそれぞれの性格や個性の説明をスキップできるので、小さな読者にも分かりやすいし、使いやすい。一方、YAになると、そうしたざっとした個性の割り方では、複雑化する傾向にある人物を描きにくいし、かえって個性を分けにくくなるので、使われない。

ところが、そのYA向けの作品の中でも、動物が出てくる、まさに典型的なのは『ウォーターシップ・ダウン』。あれはもう全部、ウサギたちの世界で、それぞれに個性があって、人間と同じように一匹一匹のウサギが描かれている。その上に、ウサギの生態というか、ウサギの生物的な条件をかぶせて、物語が展開する。同種の動物ファンタジーに『ウォーリアーズ』という猫のシリーズがある。20巻ぐらい。あれもやっぱり同じような作り方かな。ひこさんに聞くと、こんな感じです。

斉藤 個性を複雑に描き分けることができれば、むしろ効果的に作用するのかもしれません。

金原 あと、もう一つは、YA向けで動物が出てくるのは、擬人化じゃなくて、本物の動物、あるいはペットとしての動物。『子鹿物語』なんかは典型的な例で。あと、これは野沢佳織さんが指摘してくれたんだけど、イギリスの作家のロバート・ウェストールが猫好きで、よく猫を登場させるんですよ。

斉藤 なるほど……。

金原 ロバート・ウェストールの猫ものっていうのは、YAなんですけども、猫がしっかり生きている。『猫の帰還』は、第二次世界大戦中に、飼い主に捨てられた猫が、戦争中のイギリスで逃げて、飼い主の元に戻るという作品。そういう使い方は確かにあるかなという気はしますよね。

 あと、ひこさんによると、『ウォーターシップ・ダウン』や『ウォーリアーズ』以外に、YA向きで動物が出てくるのは、『子鹿物語』、『狐笛のかなた』『カウンセリング熊』『シャイローがきた夏』。それから、これはもう絶版なんですけども、『ゴッドハンガーの森』

斉藤 ありがとうございます。いやーあるんですね。

金原 うん。そういうふうに探していくと、結構、面白い作品があって、僕が訳した『豚の死なない日』っていうのがあって、あれは豚を飼ってて、結局、豚を殺さなくちゃいけなくなる話だから、そういう形での動物っていうのは、多分、出てくるんだろうなという。

ジョン 金原さんの講義のようで、すてきなブックガイドにもなりました。どうでしょう、斉藤さん。

斉藤 年長で、社会化された読者には、社会の中での動物の役割までふくんだ、個性を出せれば、逆に動物物語は、とても効果的なのかもしれませんね。

 しゃべるという意味では、『レディオ ワン』はDJジョンの一人称だから成立したんだなあと思いました。他にしゃべる動物が何頭も出てきたりすると、かなりちがう物語になったのかもしれません。あと挙げてもらった本がほとんど読んだことがなくて……。

ジョン がんばってください(笑)。ここで一度切りまして、次回に続きます。

(2019年8月21日収録)

※ ※ 図書の出版社ページのリンクが難しい場合は通販サイトなどにリンクしています。

『レディオ ワン』(光村図書)より、11月15日発売。
クリハラタカシさんの装画で、「飛ぶ教室」連載(2018年春号から冬号)の四篇に書き下ろし二編を加えました。


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