石戸諭さんによる、百田尚樹さんに関する記事を読んでの感想。

 Newsweek日本版の百田尚樹さんに関する記事を読んだよ、というお話をします。このnoteで、この記事を受けての深い分析とか展開するつもりはございません。有り体に言えば、感想を書き留めるだけのnoteになります。

 掲載されたのは5月28日発売のNewsweek日本版。記者は石戸諭さんだ。石戸さんに関しては、ネット記事やラジオ出演などで知っていた。気鋭のリベラル派ジャーナリスト。彼が書いたということもあって、僕はこの記事をより読みたくなった。
 ただ、僕の場合は彼が書いてなくても読んでいたかもしれない。僕は以前から、まさに現象としての百田尚樹さんに関心があった。そう、あの『日本国紀』だって、発売日に買いに行ったのだ(今思うと初版を手に入れておいたことはなかなか良い判断だったと我ながら思う)。

 まあ、そんなこんなで(というほど説明してないが)、僕は手に入れたNewsweekをペラペラとめくってみた。どうでもいいが、こうしたタイプの雑誌を読むのは久しぶりだったので、なんかテンションが上がってしまった。

 百田さんはどういう人物か? 彼を取り巻く人間たちは? 『日本国紀』の記述の問題点は? 彼の本や政治的発言は誰にヒットしているのか? という問いに基づいた、石戸さんの調査が提示され、そのあとで百田さんへのインタビューが掲載されている。
 端的に言っておもしろい。ここまで百田さんをきちんと分析した記事は初めてみた。それだけで価値があるかもしれないが、この記事をより面白くしているのは、百田さんを分析することが今の日本社会を分析することになっている点であろう。書き手も読み手も不用意に「〇〇を通じて日本社会を見る」ことは慎まなければならない。でも、百田さんという人物を描くと、慎みなんて何のその、日本社会の一側面が否応なしに見えてきてしまう。そんなスリリングな現代社会論が含まれている点もこの記事の魅力だ。

 僕は前々から言ってきたことだが彼は彼らなりにマイノリティ意識がある。そして、朝日新聞を代表とする、日本人を貶める権力者と戦っていると思っている。百田さんと彼の政治的発言を支持する層の認知図式が事実として正しいかどうかはおいておくとして、こうした認知図式を有している人が一定数存在することは覚えていても損はないと思う(特に、我こそが権力者と戦う者だと思う人は)。

 そういえば、記事に関して、リベラル派の人たちの反応が2分されていた。この記事を肯定する人 / 否定する人。僕はここまでの文章でわかると思うが肯定派だ。分析が興味深いことに加えて、今まで「百田なんて相手にする価値もない」と捨て置いていたリベラル派の人たちに、彼とその界隈の実像を伝えたという点で意味があると思うからだ。
 少し話を広げよう。否定する人の中にはこうした記事が出ることによって、「百田に利してしまう」、「客観的な態度で書くことで彼らにも一定の理があると思われてしまう」ことを心配する人がいると思う。そうした批判に対しては「事実としてそうしたこともあると思うが、そうした理由で記事を批判するのもどうかと思う」といいたい。
 確かに百田さんの理屈が一定の体系性と論理性を備えていた場合、記事を読んで「そうかもしれない」と百田さんに共感してしまう人がでるかもしれない。しかし、たとえそうだったとしても、いわゆるリベラルな価値観とアカデミックな真理が正しい(この表現はかなり変だな)のであれば、ちょっとした百田シンパなんて簡単に納得させられるはずだ。もし、共感者が出てそうした人たちをどうしようもできなくなることを心配して、反対しているのであれば、まず批判すべきは記事じゃなくて、自分の理屈・理論の弱さだろう。
 もしかしたら、常に正しい判断ができる自分と簡単に騙されてしまう一般大衆という図式に分けて考えているのかもしれない。「自分や石戸さんはわかっているが、バカな大衆は流されてしまう!!だから大衆にこんな情報与えるな」的な。まあ、これは僕の想像だ。できればこんな傲慢な人はいないと信じたい。

 とまあ、僕の感想をタラタラと書いたわけだが、最後に一言。最近思うところがあって、今までは専門家が、相手にする価値がないと思われていた(思われている)事柄・主張・人物も、専門家がきちんと吟味し批判する必要があるんじゃないかな、と思っている。そうした批判は誤った知識が社会に拡散するのを防止するという点でとても公共的な価値がある作業なのではないか。そうした作業が今よりも評価されるようになれば、社会で共有される知識の質も改善されるような気がする。

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