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自作TCG作りで失敗して学んだこと7選

こんにちは。サイとです。
現在『リキャストリフト』という東方Projectの二次創作カードゲーム(いわゆる「自作TCG」)を運営しています。

今回は赤字になった作品、頒布に至らなかった作品についての話です。
この記事では失敗から学んだことをまとめていきます。

tips「自作TCG」
個人や同人サークルが自腹で制作・発表しているTCGのこと。
この記事では企業が販売するTCGを「商業TCG」と呼ぶ。

tips「リキャストリフト」
Discordとユドナリウムを使ったオンライン対戦カードゲーム。
ここで遊べる→https://discord.gg/hmgNwaVW4n

チームワークを大切にする|『マテリアル』

まずは失敗作を見てください。

失敗6

2013年制作『マテリアル』です。アナログゲームでは処女作です。
カード枚数250枚、同名カード10枚。

ドミニオンクローンです。これは頒布しました。
ルールは割愛しますが、手に入れたカードはすぐさまデッキに入るのではなく、経年カウンターで遅れてデッキに加わるというシステムです。

一番の失敗は一緒に作業したメンバーを音信不通にさせたことです。
人は作りたいものが実現できないと気づいた時、情熱が冷めます。

技術・資金・知識・時間など不足だらけでしたが、途中まで一緒に楽しく作っていたはずです。しかし、イベントまでの〆切前、理想のものが作れないという現実に直面した時、彼はそのまま姿を消してしまいました。

情熱が冷めるのは、制作物への愛が足りなくなった時に起こります。
制作物への愛を保つのは難しいですが、担った役割を果たせるような環境にしたり、やりたいことをやれるようにしたり、アイディアについてメンバー全員の同意を得たり、チームワークは足並みを揃えることが大切です。

ゲームは体験をデザインする|『衝撃の刹那』

2015年制作『衝撃の刹那』です。TCGでは処女作になります。
デッキ枚数40枚、同名カード4枚。

これは時間トラック制のTCGで、それぞれのアクションに時間コストがあり、時間コストを満たすとそれ以上アクションできなくなります。
最後にラストバトルを行い、場に残っているユニットが強い方の勝ちです。

このゲームがどんなゲームだったのか羅列しました。

・時間コストで1度でもプレミすると挽回できないシビアなシステム
・そのくせターン進行が複雑でプレミしやすいルール
・戦闘が無いためゲーム中に何をしたらいいのか分からない
・途中でターン進行が不明になるとゲームが続行できない

失敗は、人が遊ぶことを想定して作っていなかったことです。
当時の私は面白そうなメカニクスを使えば面白いゲームになると考えていました。しかし、それは間違いです。

面白そうなメカニクスを使うことと面白いゲームは違います。
ゲームは実際に体験しないと面白さが分かりません。

「面白そう」であることは体験させるまでの敷居を下げるものですが、それすなわち「面白い」となるとは限らないのです。

ゲームは体験をデザインすることで、面白くなります
遊んだときに楽しいかどうか、それがすべてです。

一つのアイディアに固執してはいけない|『セツナ:the ticking

失敗2

2016年制作『セツナ:the ticking』です。
デッキ枚数12~24枚、同名カード1枚まで。

時間トラック制からラウンド制になり、リーダーユニットが設定されました。互いに規定のラウンド数を終えるとラストバトルが発生して、リーダーユニットのパワーが高い方が勝ちます。

当時の私がやりたかったのは「一発逆転」と「一撃決着」です。それらがいつでも起こりうるゲームにするため、最後の一撃で逆転しちゃうシステムを組み込んだゲームを作ることにしました。

前作の『衝撃の刹那』では、条件が揃うとゲームが強制終了して、互いにラストバトルを行うというルールがありました。
これは私の理想を叶えるために外せないアイディアです。

しかし、結果はどうでしょうか。

・ラウンド制で、最後のラウンドまで何をしようが無意味
・最後のラウンドまで待ちの姿勢が最強だった
・デッキ構築要素がプレイ時間を無駄に長引かせ、終わるまで2時間かかる

プレイヤーはいかに負けないかを考えて動き、対決する相手プレイヤーもまたそのように動くため、ゲームは膠着状態を起こし、何もしないでいたらたまたま決着がつくゲームになってしまいました。正直クソゲーです。

私の大きな失敗は一つのアイディアに固執したことでした。
ゲーム作りは体験をデザインすべきだと分かっていても、それと同時に自分の理想を叶えるゲームにするのは非常に困難な道だったのです。

このアイディアにこだわってはいけないと思いました。
しかし、「面白い」を求めてアイディアを捨てるというのなら、それはこだわりを捨てるようなものではないでしょうか。

いいえ、こだわるべきはアイディアではなく、やりたいことなのです。
改めて、私のやりたいことは「一発逆転」と「一撃決着」と言い切れます。
自分のやりたいことを明確に言葉にしなければなりません。

過度なオリジナリティは遊びやすさを損ねる|『グリモアバトル』

失敗4

2017年制作『グリモアバトル』です。
デッキ枚数20枚、マナデッキ20枚、同名カード2枚まで。

マナを共有にしたり、テキストに用語を入れて文字数を減らしたり、デザインも含めてオリジナリティを追求しました。もちろんこれもマナを消費しきるとラストバトルになって以下略

前作の問題だったゲーム時間の遅延は、10ターン経過すると強制終了するルールで改善しました。そして、ラストバトルに備えてアドバンテージを取り合うゲームにしたつもりでした。

しかし、端的に言ってクソゲー。
麻雀で例えると、山がなくなるまでツモもロンもできないゲームです。

山がなくなるまで、ただの時間の無駄になりました。
とはいえこれがラストバトルを使ったシステムの最適解だと感じました。
残った問題は以下です。

・用語が覚えられない
・ラストバトルまで時間の無駄
・デザインがTCGユーザ向けじゃなくて間違いが多発した

それ以上の大きな失敗は専門用語が多すぎたことでした。
能力名を省略しすぎて説明書を脇に置かなければならないほど。

こういう失敗はある程度遊べるゲームにならないと出てこないんですよね。
クオリティを上げていく過程で見えてくる次の課題もあります。

オリジナリティを気にして想定するプレイヤー層に馴染みのないメカニクスや用語を使ってみたのも失敗でした。
単純に「遊びづらい」と一蹴されています。

他の自作TCGには「○○の劣化コピーじゃん」とケチを付けるくせに、自分が知らないものを出されると遊びづらいと愚痴るとはワガママなものです。
でもそれが普通のプレイヤーだと思います。

どんな人がどういう時にこのゲームを遊ぶのか想定する必要があるんです。
そこから外れすぎたものはその人向けじゃなくなってしまいます。

「面白い」への挑戦をやめてはいけない|『マドー/レギオン』

れい

2018年制作『マドー/レギオン』です。4作目。
デッキ枚数30枚、同名カード3枚までです。

これはタワーディフェンスをシステムの基本にし、互いに共有する盤面でカードを配置し、相手の拠点に3回ダメージを与えると勝ちます。

攻撃はターン終了時に自動で行われ、ダメージカウンターを1マスずつ移動するシステムです。ダメージが拠点までたどり着かないようにカードを配置します。ラストバトルは無いです。

こだわりを捨てて想定するプレイヤー層が好むゲームシステムを取り入れてみた結果、ハマる人はハマるけど普及しなそうなゲームになりました。
失敗したポイントを見てください。

・プレイ時間が長い(約1時間)
・挽回が難しい
・運要素が無いため負けてる側は苦痛を感じやすい

いわゆるシビアな拠点戦略ゲームですね。
それをカードゲームに置き換えただけで、勝ち負けの差が出やすいTCGというジャンルにおいて、負ける側に強いストレスを与えてしまいました。

この頃、私はアブストラクトゲーム『CIFRA』で成功し、公開情報で殴り合うカードゲームを作ったら、『CIFRA』のファンも遊んでくれるだろうと考えていましたが、実際に遊んでくれたのは本当にごく一部の人だけです。

次もまた成功したい、という欲に流されて、挑戦しなかったのです。
あれだけこだわったラストバトルのメカニクスも捨てて、やりたいことである「一発逆転」と「一撃決着」とは程遠いシステムを作っていました。

まあまあそこそこの出来にはなっても、そこに情熱がなければ丁寧さやディテールが失われ、先の見えないゲームになってしまいます。
自分が「面白い」と思うものを意地でも作らなければならないのです。

実現可能性の制約の中で「面白い」を追求する|『ヤイバソウル』

失敗1

2019年制作『ヤイバソウル』です。
デッキ枚数8枚、同名カード1枚まで。

このゲームは手札と場しかなくて、初期の場に3枚までカードを伏せて配置し、この場の伏せたカード0枚の時に攻撃を受けると負けます。

シルエットが描かれた技カードと漢字が書かれた印カードという2種類のカードが場にある時、攻撃が撃てます。攻撃したら相手のカードを1枚を公開します。その時、印カードの右下にある図に従って手で印を組み、カードの角にある漢字を自由に組み合わせて必殺技を叫びます。技と印で、オリジナル忍術を作って闘うゲームです。

今までやりたいことのうち「一撃決着」に重きを置いたゲームを作ってばかりだったので、今度は「一発逆転」に重きを置いたゲームを作りました。

これは『我流功夫極めロード』を参考に作ったゲームですが、TCG向きじゃなかったですね。

・いちいち印を結ぶために手札をテーブルに置かなきゃいけない
・必殺技を叫ぶのがだんだん作業になる
・相手にめくられるカード次第で攻撃できない時が多い

今回は課題として少ないカード枚数でゲームを作ることにしました。
枚数が少ないほど印刷代が安いからです。

今までの反省を踏まえて、作るのに苦労しないゲームにします。
実現可能性の制約の中で「面白い」を追求するのです。

結果的にゲームは遊びづらいものでしたが、少ない枚数でゲームを作るのは自分にとって不可能なことではないと分かりました。

私の「面白い」は少ないカード枚数のTCGで実現できるはずです。
制約が明確なほど試行錯誤が的外れになりにくいと思います。

試行錯誤の終わりに、終着点までの距離を概算する

最初はゲームとして成立してませんでした。
次第に面白いか否かを考えられるところまで成長しています。

最初の3作は同じ失敗を繰り返していました。
でも、これが失敗であることに最初の2作では気づいてません。

失敗した箇所が多ければすべての失敗を修正できなくて当然です。
失敗が多すぎたので修正できるところだけ修正していきました。

失敗は繰り返していいです。
その時は見えてなかった部分に気づけるとクオリティが上がります。

また、挑戦を繰り返すことでこだわりが見えてきました。
逆転しやすく、必殺技で一撃に決めるルールが好きみたいです。
これもやりながら見えてくるものなのかなと思います。

繰り返すことでゲームの質が良くなるのですが、どれくらい繰り返せば求めていたものが出来上がるのかは全くの謎です。

試行錯誤を繰り返している間はゲーム作りの準備になります。
そして試行錯誤が終わった時、やっとゲーム作りが始まるのです。

これは私の経験則ですが、世の中に完成品として発表できる作品というのは、ゲーム作りの準備に費やした時間の倍くらいの時間がゲーム作りで掛かると思いました。

つまり、ゲームが完成するまでに掛かる時間は、
ゲーム作りの準備が1/3、ゲーム作りが2/3
くらいなのだと感じます。

ゲーム作りの準備に時間が掛かるということは、ゲーム作り自体にも時間が掛かるので、準備に時間が掛からないゲームは実現可能性が高いということでもあります。

試行錯誤の終わりに、終着点までの距離を概算してみましょう。
無駄に苦労しなくて済むかも知れません。

まとめ

・チームワークは足並みをそろえることが大切
・ゲームは体験をデザインすることで面白くなる
・こだわるべきはアイディアではなく、やりたいこと
・どんな人がどんな時にこのゲームを遊ぶのか想像する
・自分が「面白い」と思うものを意地でも作らなければならない
・制約が明確なほど試行錯誤が的外れになりにくい
・準備に時間が掛からないゲームは実現可能性が高い