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60分で書いてみた、短編小説

山田ズーニー先生のワークショップにて、『制限時間60分で短編小説を創る』をしました。

太宰治さん『黄金風景』の構成をテンプレートに落とし込み、みんなでオリジナリティを入れて書いてみるもの。


人によってまったく違うものが出来上がり、個性が溢れていました。

伝えたいもの、創りたいキャラクター、それぞれが違うんだと感じたワークショップです。


拙作も紹介させて頂きますので、コーヒーでも飲む余裕があれば、下へ進んで読んでみてください。



影と影の風景


私は子どもの頃、かなり負けず嫌いだった。ところが勝負事をすると負ける可能性も考え、あえて避けようとするズル賢さもある。負けることから逃げるため、自分のことを悪く言うことで、少しの安心感を得ていた。
 みっちゃんは、自分のことを大切にする。いつも周りには人がいて、あだ名で『みっちゃん』と呼ばれていた。深い仲でもないのに、私まで『みっちゃん』と呼んでいた。

 あれから10年と少しが経ち、たまたま同じ大学、同じクラスで再会した。だが、特に話すこともない。挨拶はまれに交わす。
 ただし、みっちゃんに限らず、これはクラス全員に対してである。
 私はあの頃よりさらに自信を失い、前髪を伸ばして、ニキビまみれの顔を覆い隠していた。
 前髪を短くし、活発そうなTシャツ姿のみっちゃんを、真っ直ぐ見つめられなかった。

 大学には、研修制度がある。大学が決めた企業へ研修生として向かうのだ。
 それぞれの住む場所によって、近くの企業が割り当てられる。一人だけとは限らない。私はどうしても、一人で行きたかった。

 当然、同じ小学校だったみっちゃんと二人で研修へ行くことになってしまった。
 私なぞの願いは、遠く及ばないものなのである。


 ここは、おもちゃを生産する工場。これといって思い入れはないが、おもちゃというとワクワクする気持ちも残っている。
 地獄の研修、初日が始まった。

 自分には人に物を伝える力がない。無気力な顔をしていて、やっているつもりでも、そう見てはもらえない。

 一方で、みっちゃんはどんどん研修先の人望を集めていった。分からないと質問をし、すぐに答えてもらえる。
 そんな質問、しなくても分かるでしょ、なんて浅ましい嫉妬が芽生え始め、手に力が入り、生産中のおもちゃをいくつかダメにした。

 優しく「練習用だから大丈夫」と声を掛けてくれる中年の女性も、3つ目を過ぎた頃から横目でチラリと見るだけになった。
 その目を見ると緊張して、4つ目をダメにした。

 みっちゃん、どうしてなんでも持っているの。

 ついに中年の女性から怒られながら、隣で働くみっちゃんを見て、そう思った。

 初日の終わり頃、私は残って練習させられることになった。そろそろニキビがジンジンして、かゆい。マスクのせいだろうか。

 中年女性が、私のダメなところを、私に報告している。「はい、はい」とうなずくが、正直、胃がひっくり返りそうな思いをした。
 次の言葉に備えて心構えを作っていたが、あっけなく崩れてしまった。
 「あなたのせいで、みっちゃんも帰りが遅いのよ」
 私の帰りを気にして、待っているそうだ。なんで。
 惨めである。ばかにするな。
 今日の怒りは、みっちゃんへ向いた。中年の女性も、みっちゃんと呼んでいることには、後で気がついた。


 帰り際、みっちゃんが「一緒に帰ろう」と寄ってきた。一人で帰ればよいものを。
 怒りをぶつける度量はないが、自分の中に湧く感情をそらすように、少し身体を傾けながら歩いた。

 私は、みっちゃんを怒りの中へ引き込もうと、語気強めに言う。
 「あの人さ、私にばっか文句言い過ぎじゃない?」
 みっちゃんはうなずいた。
 「そうだよね。ちょっとひどいと思った」

 怒りを誘発できて少し優越感に浸ったが、すぐしぼんでしまった。

 「だから、ひどいこと言われて大丈夫かなって思ったの。愚痴ってね」

 みっちゃんは、パリパリのスーツに身を包まれながら言った。
 自分がどんどん惨めな気持ちになる。

 どうして、みっちゃんがみっちゃんと呼ばれるのか、実感が沸いてしまったのである。
 負けた、負けた、そう思って身体の穴という穴から汗が吹き出す。貶めようと少しでも思った自分が哀れでならない。

 夕日が落ちて、自分の影が見えた。
 背中が丸まっているせいで、身長が低く見える。

 「明日はさ、私もちゃんと言ってみるね」

 みっちゃんの影は、いきいきと地平線まで伸びていくようだった。

 負けた。これは、私への戒めだ。ただし、悪いことではない。明日の失敗作を減らすための、戒めだ。そう思い込むことにした。





読んで頂いて、ありがとうございました。

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せんきゅうです💖
10
ベビーシッターと漫画家の複業さん👶🖋|広告漫画や創作活動もしてます|フリーランス| #コルクラボマンガ専科 4期 |ごはんがうまい|お仕事連絡は→ contactnaosan@gmail.com