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【選手名鑑Vol.6 根谷崎天音】 −「出来マネ」 そう言われ続けるのには理由があった。確かな実力と信頼でスタッフを牽引する彼女に迫る−



「四年間捧げて、正解でした。

あと少し、全力でやりきる準備はできています」


誇らしい表情でそう語るのは、スタッフリーダーの根谷崎天音だ。

選手、スタッフ、コーチ陣。全方面から圧倒的な信頼を集める彼女の軌跡に、密着した。



1、セインツとの出会い


「『絶対今年一部に上がるから!
そんな組織を、支えてみないか』

って、すごく自信満々に*たろいちさんに言われたんです(笑)」

*現在プレイングコーチを務める19卒川島市太郎


両親の勧めもあり体育会への入部を考えていた彼女は、新歓期間の食事会に参加していた。

食事会中に部員と会話をする中で、
当時セインツは関東リーグ二部に属していたものの、
急成長中の組織だということを知った。

彼の言葉に魅力を感じた彼女は、入部を決意した。


そして川島の宣言通り、入部後のリーグ戦でチームは一部昇格を果たした。

「何が何だかわかってなかったけど、とにかく点の獲り合いが凄かったんです。
必死で勝とうとする先輩たちの姿に圧倒されたのが、今でも忘れられません」

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一部昇格と同じくらい彼女にとって衝撃的だったのは、ある部員との出会いだった。


「『礎』しか口にしない人ですけど(笑)、
彼のおかげで、勝たせるってどういうことなんだろうって、一年生の頃から考える癖がつきました」

なぜこの練習をするのか。
なぜそこにパイロンを置くのか。

練習に参加しては、思考を巡らせた。


「一年生のとき彼と出会っていなければ、いまの私はいないです」



河野瑞希だ。

彼は学生コーチとして、新人育成に尽力していた。


「『お前らの代なら、今までにないスタッフ組織を作ることができる』
そう言って、何度もミーティングを重ねてくれました。

ただの便利屋じゃなくて、自分達から勝たせようっていう気持ちが、同期スタッフの中で次第に強くなりました。
今でもその気持ちは、とても強いと思います」

河野率いる「考えるスタッフ」が学年をより一層勢い付け、チームは走り出した。


天音さん2

根谷崎(左)のスタッフ人生を変えた、河野瑞希(右.19卒)


2、最強世代の幕開け


「学年がはじめて、ひとつになったと感じました」

8月に行われたサマーステージ。
彼女にとって、初めての新人戦。

「AチームもBチームも決勝に進んだときは、ほんと鳥肌立っちゃって(笑)」

チーム史上初の新人生優勝を果たした彼女らは、チームに新たな風を吹かせた。


「それまでは、新人戦がすごく軽視されていたと思います。

先輩スタッフに、『新人戦よりリーグ戦の方が大事だから。もっとリーグ戦に集中して』と指摘を受けたこともありました。

本当に悔しくてたまらなくて。前澤とかキレてたし(笑)」


彼女たちの優勝をきっかけに、新人戦の価値が上がったことは言うまでもない。

今では新人戦の度に
上級生が声を張り上げて応援するのが、当たり前になった。


「これはひとつ、私たちの代が変えたことですかね」



3、最大の挫折


「あのときは、大変でしたね、、本当に」
苦しそうに、口を開いた。

一年生の頃から学年リーダーを務めていた彼女は、組織の幹部であるスタッフリーダーに就任した。

新人戦でも功績を収め、順風満帆だと思われていた彼女だが、
大きな壁がのしかかる。


約半数のスタッフが、退部を考えていたのだ。
負の連鎖が起こっていた。

毎日のように、退部の相談を受けていた。


リーダー経験がない彼女にとって、約30名のスタッフをまとめることは、まさに試練だった。


「どうしたらいいか、全然わからなくて。

誰に頼れば良いのかわからなくて」

孤独を感じていた彼女は、停滞するスタッフ組織から何度も目を背けたくなった。


『スタッフ組織、本当にこのままでいいの?』

そう声をかけたのは、副将の後藤だ。


「駿太がいたから、逃げずに現状と向き合うことができました。

フェイスの武者修行の帰り、『マジでどうする?』って相談に乗ってくれて。

本当に感謝しています」

彼の存在もあり、なんとかこの現状を打破しようと、毎日考え続けた。


そこで彼女が行ったのは、スタッフ全員との個人面談だ。

「みんなが部活でどういうことしたいのか、
今何を考えてるのか、知らなきゃって思って」

彼女自身、三年生の頃にAS組織を立ち上げ、自分が活躍できる場所を見つけていた。
だから後輩にも、やりたいことをやって活躍できる、そんな環境を作りたいと考えた。

「あと、みんなに自分のポテンシャルに気づいて欲しくて」


個人面談の成果が出たのか、徐々にスタッフ組織に活気が戻ってきた。

「あのときは本当に辛かったけど、
今は、スタッフのみんなが、私の原動力です」

入部当初から「出来マネ」と慕われ、常に誰かの原動力であり続けた彼女。

その努力に応えるかの如く、
同期もメキメキと力をつけていた。


「まず、四年スタッフがすごく頼もしくて」

なんで日本一を獲りたいのか
どうやって貢献したいのか
何度も話し合った。

それにより、一人一人の意識は確実に変わっていた。

かつて自分のために行動していたことが、組織のため、後輩のために頑張れるようになった。

「るなが『もっと頼って』って言ってくれたり
同期が協力的になって、やりやすくなりました」


彼女の原動力は、同期スタッフにとどまらない。

後輩が頑張る姿を見ると、とにかく頑張れるという。

「まひろがSG活動に熱中してたり、
ほのかがすごく主体的にASを動かしてくれるようになったり。

ASは、もう私がいなくても安心して任せられます(笑)」

三年のときに分析好きの彼女が設立したAS組織を、
後輩がリーダーとなって、進化させている。

彼女が作った礎が、続いている証拠だ。


4、確固たる想い


「ずっと続く最強なスタッフ組織を作るために、今までやってきました」

立教はスタッフの人数が多く、他大学から舐められることもあった。

一、二年生の頃のスタッフ組織は、良い状態とは言い難かったという。
それを自分の力で、変えてきた。


「ただ多いだけじゃなくて、強い個が集まった最強集団ってことを証明したいんです。

それも、今年は強かったよねじゃなくて、ずっと」

なぜ彼女はそこまで、立教のスタッフ組織にこだわるのか。

「私自身、この部活に入って良かったなって本気で感じていて。

そんな思いを後輩にもしてほしいんです。

スタッフの人数が多い中でどう貢献するかっていう課題は、誰でも悩む時期が来ると思います。

そんな中で、後輩の選択肢を増やしたくて、
いろんな活躍の仕方があることを示すために頑張ってきたことの一つが、審判活動です」

現在男子ラクロス界で、学生の上級審判員はたった三人。

その三人のうちの一人が、彼女だ。
他の二人は男性で、女性は彼女だけである。

早立戦の後、一年生から『審判カッコ良いです、やりたいです』と声をかけられた。

「後輩の選択肢を増やせたことが嬉しくてたまらなくて。
自分が努力することで、それを体現できたと思います」

天音さん3

同期と後輩スタッフ達(つま恋カップ)

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「セインツに入るまで、自分のことはあまり話さない人生でした。

私生活が謎って言われることも多々あって(笑)


でもセインツに入って、幹部になって、自分のことを話す機会が増えました。

自分をさらけ出してこそ信頼関係が築けることも、セインツで学んだことの一つです」


笑みを浮かべながら続ける。

「本音で付き合える人が増えたから、引退してもみんなと付き合い続けるんだろうなって思います(笑)

中高とは違う、仲間っていうか。

自分の代わりに泣いて喜んでくれたり、怒ってくれたりする人がいて。


四年間捧げて、正解でした」


引退まで残り数ヶ月。



「たつくん勝たせたいな」

彼女の目に、迷いはない。




執筆:三年MG  畠中 来実

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