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物語のタネ その六 『BEST天国 #17』

様々な地獄があるように、実は天国にも様々な種類がある。
現世での行いや悪行により問答無用に地獄行きかが決められてしまうのに対して、天国は自分で選べるのだ。
ここにまた、ある1人の男が死んでやって来た。
名前は、宅見卓朗。享年37歳。
前回は「指圧天国」に行ってみた宅見氏。
今回はどんな天国に?

「ふふぁ〜、しかし、気持ち良かったですね指圧、めちゃリラックス出来ました」

ちょっと遠い目をしながら宅見がつぶやく。
「坂田さんの押しは麻薬ですね。早くまた肩凝らないかなって思っちゃいますよ」
というとミヒャエルは笑った。
それにつられて宅見も。
すると、ミヒャエル、ふと何かを思いついたようで。

「リラックスと言えば、宅見さんは、自然は好きですか?」

「自然?というと」
「簡単に言うと、キャンプとかハイキングとか森林浴みたいなジャンルです」
「取り立ててそういったことを積極的にやったわけではないですが、学生時代に友達と河原でバーベキューとかはしていました、たまに」
「なるほど、では、苦手ってことはないですね」
「それは無いですね。どっちかと言うと、知らないって感じです」
「わかりました。早速行ってみましょう」
「何となく行き先が分かりましたが、行ってみましょう」

いつものごとく白い空間。
しばらくすると、ステンレス製のマグカップを右手に2つ左手に1つ持って男が現れた。

「待ってた待ってたよ、ミヒャエルさん。はい、これコーヒー」
男がマグカップをミヒャエル、そして宅見に渡す。
「ありがとうございます。あ、私、宅見と申します」
「宅見さん、はい、よろしくお願いします。私、マコトカツオと申します」
「なんか、本マグロみたいな感じですね」
「マコトカツオさんは達人キャンパーにして、この天国のマネージャーさん。ん!やっぱ美味いですね、マコカツさんのコーヒーは!」
「マコカツ・・・⁈」
「だろ!やっぱ、自然の中で入れたコーヒーは。宅見さんもそう思うでしょ」
「ええ、美味しいです。ちなみに一応お聞きしますが、こちらの天国は・・・」

アウトドア天国よ」

「やはり」
「おうよ」
ここで、コーヒーを満足そうに飲んでいたミヒャエルが、
「ここは、達人キャンパーのマコカツさんが自身の経験と夢を注ぎ込んでプロデュースしたアウトドア天国なんですよ」
「おうよ、おいらの夢であり、それはアウトドア好きの夢の形でもあると思うんだよな。宅見さん、アウトドア好きの夢って何だと思う?」
「⁈えーっと、美しい自然の中でずっとテント生活・・・ですか?」
「大きく言うと合ってはあるけどね。ちなみに、宅見さんは山と川と海どれが好き?」
「んー、迷いますね。山は緑の中にいるあの匂いも含めて気持ち良いですし、高いところからの見晴らしも素敵ですよね。川はバーベキューとか楽しいし。バーベキューなら海も良いけど、海はやっぱり波の音を聞きながらのんびりするのが良いですよねー」
「宅見さん、結構詳しいですね」
「いえいえ、どれも友達に誘われて行った時のことをちょっと思い出しながら言っただけです」
「で、結果的にはどれが?」
「んーーーーー、スミマセン。決められないです」

「正解です」

「⁈」
「山も川も海も全部が手が届くところにある。それがアウトドア好きの夢なのです!」
「!」
「現世ではね、海に行ったら海の、山に行ったら山の魅力しか堪能出来ないわけです。山で緑の匂いに包まれている時に、ふと、あ、潮風の匂いも・・・と思ってもすぐには無理でしょ」
「それはそうですね」
「山にいる時に、次の休みには海に行こう、そう思うのも楽しいですが、やっぱ、思い立ったら吉日で。波の音を聞いている時に川のせせらぎを聞きたくなったらすぐに聞きたいじゃないですか」
「ええ、まあ、確かに」
「宅見さん、キャンプはね、“行く“もんじゃないんですよ」
「え?それはどういうことですか」
「“行く“もんじゃない、“居る“もんなんです」
「ほう」
「宅見さん、コタツ生活でした?」
「コタツってあのコタツですか?」
「そうです、あのみかんを食べるコタツです」
「それであれば、コタツ生活でした」
「コタツ生活の理想の形って何ですか?」
「コタツ生活の理想・・・。コタツから出ないで居られること、ですかね。何でも手の届くところにあって・・・。あ⁈」
「そうです」
「なるほど」

「自分がいる場所で、山も海も川も満喫出来る。それがアウトドア、キャンパーの夢なんですよ!」
「コタツ生活と一緒⁈」
「そうなんです!」
サムアップしながら満足そうに頷くマコトカツオ氏。
つられて宅見も頷く。
それを見てさらに満足そうに頷きの幅を大きくして頷くマコトカツオ氏。

「宅見さん、コーヒーおかわりどうですか?」
「あ、頂きます」
いつの間にかバーナーで湯を沸かしていたマコトカツオ氏。
宅見のマグカップにコーヒーを注ぎながら、
「どうですか、宅見さん、この天国で山川海に本当に囲まれて過ごしてみませんか?」

新しく入れてもらったコーヒーを一口飲んで思案顔の宅見。
両手で掴んだマグカップから手、そしてココロにじんわりと温かさが伝わってくる。
しばしの沈黙の後、
「・・・やっぱり遠慮しておきます」
「あら」
「すみません・・・毎日だと逆に満喫する自信が無く・・・」
「そうですか〜、残念。でも、それが宅見さんの正直な気持ちですから、それに従うのが一番です」
「ありがとうございます」
「そうやって、自分に正直であれば、必ずピッタリの天国が見つかりますよ!応援してます」
「はい!」

「ところでコーヒー、もう一杯どうです?」
その後もしばしコーヒータイムの3人。
ゆっくりと時間が流れていく。

さて、次回はどんな天国に?




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