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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#29』

世界中から集まったブラキュラ商事所属のヴァンパイア達がドラキュラ会長の血を吸い終わり、会社のホールのそれぞれの席に着いた。

彼らを壇上から見渡すドラキュラ会長。
推定年齢2000歳超、その人生で初めてヴァンパイアに血を吸われる、しかも100人を超えるヴァンパイアに次々と、という初めての経験に疲労困憊していた姿はもうそこには無い。
何という回復力。
まあ、疲労困憊した原因は、血を吸われたからではなく、脇腹からの吸血にくすぐったくての笑い疲れではあるのだけど・・・。

「みんな、吸血ご苦労様。これからゾンビたちとの戦いに向けて、アタシからみんなへのプレゼントがあるのよ」

会長からのプレゼント、一体なんだろう?
ちょっと期待しちゃうな。
僕は横にいる先輩の尾神さんに目で、“何ですか?“と質問するが、尾神さんも“さあ?“という感じで首をかしげる。

「ハールマン、さあ、出して」
会長の声に、ハールマンさんがステージの袖に向かう。
そして、何やら大きな布を被せた縦長のものを持って来た。
高さは僕の肩ぐらいだ。
「ハールマン、布を取って」
「はい」
ハールマンさんが被さっていた布を取る。
そこに現れたのは・・・!

「じゃーん、これぞ、ザ・正統派ヴァンパイア3点セットよ!」

正統派ヴァンパイア3点セット・・・。
襟の高いブラックマント、こちらもブラックカラーのシルクハット、最後に、ステッキ。

「全部グッチ製よ」

おー、どよめく会場。
最近の僕たち若いヴァンパイアの中でこの3点を持っている者はほとんどいない。
時代も変わり、普段このような格好をすることも無いし、やはりファッションも気になるし。
だが、ヴァンパイアたる者この正統衣装には憧れはあるのだ。

「まあ、若い子は普段は着ないだろうけど、大事な戦いにはやはり正装じゃなきゃね」
そうだ、これから僕たちが臨むのは人類と我々ヴァンパイア両方の未来を賭けた戦いなのだ。
「そして、ハロウィンだと変に思われないでしょ」
そう言うとドラキュラ会長はウィンクをした。
会長、、、はっきり言って可愛く無いです。

正統派ヴァンパイア3点セットが皆に配られる。
僕の手元にも。
マントを広げる。
重厚感があるのに軽い、これは戦いの時にいいな。
そして手触りもいい。
さすがグッチだ。
見ると襟元にブランドタグが付いている。
『G U C C H I』
グッチってCとIの間にHあったっけ?

僕の疑問を打ち消すかのようにドラキュラ会長の声が会場に響く。
「さあ、戦いの時間よ!人間とアタシたちヴァンパイアの未来はアナタたちに・・・」
「会長、会長、あと一つ忘れてます」
ハールマンさんが慌てて何かを持って会長に歩み寄る。
あっ!という顔をするドラキュラ会長。
それを受け取ると、
「ごめんなさい、ごめんなさい。あと一つ大事なものを渡すのを忘れていたわ、これよ」

取り出したのは、、、腕時計?

「ハロウィン中は街中がゾンビだらけよ、ゾンビ人気あるからね、ハロウィンコスプレで。尾神からもあったけど、最近のコスプレはレベルが上がっているから、一見しただけではどれが本物のゾンビか分からない危険性があるわ。ということで、作っちゃいました。これ、腕時計型ゾンビセンサーよ!」
確かにその通りだ、ゾンビの格好をしている人を次々と噛んでいたら、ヴァンパイアの数がただ増えるだけだ。
このセンサーは助かるな。

「しかもアップル製よ」

え⁈アップルウォッチ⁈
めちゃ嬉しい。
ブラキュラ社員一同から、おー、と歓喜の声が上がる。
「ただし、性能を高める為に、ゾンビセンサー以外の機能は無しにしたわ」

え?

僕、いや全員の落胆を打ち消すために会長の声が会場に響く。
「さあ、正真正銘、準備は整ったわ。人類とアタシたちヴァンパイアの未来の為に戦うのよ!」

ついに、決戦だ。



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