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物語のタネ その八『ツッパリハイスクールRR #2』

俺の名前は北田勝。62歳。職業俳優。
コワモテの演技派として主にヤクザ、クライムものの作品に出演。
業界ではそれなり。
その手の方々にもそれなりに人気。
この世界ではそれなりのポジションにはいる。

俺は今、大臣室のソファに座っている。

俺の幼馴染にして元関東最大の暴走族のリーダーにして議員歴20年の梶村が文部科学大臣になったのだ。
相談があると言うので10年以上ぶりに再会すると ー

彼の相談は、

「現役のツッパリ高校生になってくれ!」

というものだった。。。

「梶くん、あの、言っている意味がよく分からないんだけど」

「現役のツッパリ高校生になって今の若い奴らを救って欲しいんだよ」

「あの、だから、現役?ってのがよく分からないんだけど」

「日本の未来を作っていくのは若者だ。そんな若者を育てるのが教育現場だ。だが、今の日本の教育現場は若者に夢や希望を与えれていない、と思うんだ。だから、俺はその教育現場を改革していきたい。それは良いだろ?」

「もちろん」

「ただ、それをシステム改革や教師の育成で行うというのではダメ、無理だと思うんだ。もっと若者と一緒にその中に入って行わないと」

「うん、確かに」

「だからそれを勝くんにお願いしたいんだよ」

「いや、だからそこがよく分からないんだけど、、、」

「ツッパリ魂」

「え?」

「ツッパリ魂で今の若者の心を刺激して欲しいんだよ」

“ツッパリ“懐かしい言葉だ。
ちょうど俺達は、ツッパリの代名詞“横浜銀蝿“と同世代。
今、考えるとあの頃は無茶していたな。
いや、俺は真面目だったが、梶くんが。

無茶苦茶なこともあったけど、そこには熱いものがあったよな、憧れも。
もがいてはいるけど夢はあった、夢に向かってもがいている。
そんな時代だった。

「梶くん、梶くんの思いは分かったし、俺もそう思うよ。でもさ、どうやってやるの?現役の高校生にって言ったって、俺、梶くんと同じ歳だし。ほら、もう頭もさ、、、定時制の生徒にってこと?」

「いや、全日の普通高校」

「それ、無理あるでしょ」

「実は、ある薬が発明されたんだ」

「薬?」

「人間の表層細胞を若返らせる薬。これを使えば昔の若い頃の姿になれるんだよ」

「え?何それ」

「だから、勝くんが高校生の頃の姿に戻れるんだよ」

「えー⁈」

「ただし、その効果は1日最長8時間までだけど」

「ホントかよ、、、」

「その薬を使って現役ツッパリ高校生になってある学校に通って欲しいんだ」

「ある学校?」

「文部科学省としては、今回の取り組みのモデル校ということになるんだけど。東京のある進学校、そこに通って欲しいんだ」

「進学校に?あのさ、そもそも俺、梶くんも知っている様に高校時代ツッパリじゃなかったけど」

「でも今の世の中の人みんな、勝くん若い頃からとんでもなくワルだったと思っているよ」

「いやいや、役者だからね。それは仕事上の誤解と言うか」

「そう、役者。これは、名優・北田勝へのお願いなんだ」

「へ?」

「見事に現役ツッパリ高校生を演じ切って貰いたいんだ。学校という舞台で」

現役高校生“役“、と言うことか・・・。

図らずしも夢に見ていた役を貰ってしまった。
しかも、高校時代に憧れていながら出来なかったツッパリ人生。
俺が役者になったのは、もしかしたら、その憧れていながら出来なかった人生を擬似的に送りたかったからかもしれない。。。

「わかったよ、梶くん。役者としてはこの上なく面白い仕事だと思う。この仕事受けさせて頂くよ。ありがとう」

「ホントに?わあ、良かった、ありがとう!」

「いや、こちらこそ。で、一つ提案なんだけど」

「なんだい?」

梶村と会った日から3日後の夜 ー
俺は、行きつけの西麻布のBARにいる。
一緒に飲んでいるのは、滝内、松林、村井の仲良し4人組だ。

「で、勝ちゃん、何なのよ、相談って?」
1人カルピスを飲みながら滝内が聞いてくる。

「うん、みんなさ、ツッパリ高校生の役、演りたくないか?」

「え?なになに?そんな舞台やるんですか?北田さん、夢が叶ったじゃないですか!良かったですね!ハコはどこですか?」
後輩役者の村井が乾杯体制を取りながら言う。

「ハコはね、都内の高校」

「あ、じゃあ、もしかして教育委員会推薦の教育的メッセージのある作品かなんかですか?」
松林が前のめりに聞いてくる。

「まあ、広い意味ではそうかもしれないな」

「勿体ぶらないでさ、早く詳しく教えてよ」
カルピスのグラスの氷をゴリゴリ噛み砕きながら滝内が急かす。

「みんな、俺と一緒に現役のツッパリ高校生になってある学校に通って欲しいんだ」

「へ⁈」

皆キョトンとしている。
まあ、無理もない。

「勝ちゃん、でもその頭・・・」
滝内が目線を俺の頭部に移してつぶやく。

まあ、滝内の心配も分かるが、お前もどう見ても高校生には無理があるぞ。

「うん、みんなの心配は分かる、実は・・・・」

俺は梶村から聞いた薬の話をした。
そして、梶村の考えも。
3人はずっと黙って聞いていた。

「役者としてさ、最高の仕事じゃないすか?」
松林が言う。

「俺、最高のリーゼントで臨みますよ」
リーゼントの位置が後ろにずれていきウルトラセブン状態になっている村井がニヤリと笑う。

「勝ちゃん、いい仕事ありがとう」
滝内がニッコリ笑って俺の手を握る。

相変わらずデカい手だ。

「みんな、ありがとう」

みんな本当に役者バカだな。

共演者不明。
筋書き無し。
役者魂刺激度120%の舞台の幕が間もなく上がる。




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