お浄土ってどんなところ?
「お浄土というところはどのようなところなのですか」とご質問をいただくことがよくあります。
でも、私は未だに上手に具体的にお答えすることができません。
そもそもお浄土というところは阿弥陀さまがご用意くださって、私たちがこの世界での命を終えたあとに、そのお浄土に生まれて仏とならせていただくところなので、この世界で生きている私は、まだ行ったことがないのです。
なので、どんなところなのですか、と質問されても具体的にはお答えできないのですね。
でも、このお浄土のことを考えるとき、いつも思い出すことがあります。私は三人の子どもを授かっているのですが、今から十年くらい前の、その子どもたちののできごとです。
三兄弟の中で、一番上のお姉ちゃんが生まれたときから障害を持っていまして、うまく言葉が話せないのですね。普段のコミュニケーションは片言の単語と、身振り手振りでやり取りはしているのですが、会話そのものがうまくできません。
このお姉ちゃんがまだ小学生くらいのときのことです。
あるとき、子供たちがいつものように兄弟三人で遊んでいました。そのうちボール遊びをしようとなったようで、真ん中の弟がボールを持ってきました。よくある、プラスチックで出来ている、野球ボールくらいの大きさの色のついたボールです。
青、赤、緑など、いろいろな色のボールがある中で、一番下の妹に対してこんなことを聞きました。
「ねぇ、何色のボールがいい?」
妹は元気よく「赤ー!」と答えて、弟は「はい!」と赤いボールを渡します。
次にお姉ちゃんに対して同じように何色がいいか聞こうとしました。お姉ちゃんとは会話ができませんから、どうするのかな、と見ていたら、弟はお姉ちゃんに対して、ごく自然に当たり前にこう聞いていました。
「お姉ちゃん、何色がいいかな。好きな色を指で指して教えて」
それを聞いてお姉ちゃんはニコニコしながら好きな青いボールを指で指して答えていました。そして弟が「はい、どうぞ!」と同じようにボールを渡していました。
そして、そのまま三人でボール遊びをし始めました。
当時、弟はまだお姉ちゃんの障害について、なにかを具体的に知っているとか、理解しているとか、そんなことはありませんでしたが、まったく何事もないように自然にお姉ちゃんとコミュニケーションをとっていたのですね。
「仏説阿弥陀経」というお経は、このお浄土の様子をとてもよくお示しくださっています。それよりますと、お浄土の大きな池には色とりどりの大きな蓮華の花が美しく咲き誇っているとあります。
青や赤や黄色や白、いろいろな色の蓮華の花が、それぞれきれいに輝き、お互いに照らしあって、とても美しい光景となっている、それぞれの違う色の花がお互いを尊重しあって、そして受け入れあって、お浄土を彩っているのですね。
この阿弥陀経をいただくとき、いつもこのときの子どもたちの様子を思い出します。
阿弥陀さまのお用きは、ずっと前からすでに、子どもたちにも至り届いてくださっていて、お互いを思いやり、そのままの存在を受け入れあっている、そんな子どもたちの姿を通して、この私にもお浄土のありようを示してくださいました。
「お浄土はどのようなところなのですか」
その答えはまだまだ私には分かりませんが、いつか、そんな蓮華の花が咲き誇るお浄土に、阿弥陀さまと一緒にお参りさせていただける日を楽しみに、これからもいっしょうけんめい過ごしていきたいと思います。
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上記の内容で、築地本願寺にてお話しをさせていただきました。
五分程度の短いお話しです。
お聞き苦しいところもあると思いますが、ご視聴なさってみてください。