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目に映るもの全て誰かが考えた結果である

先日、新しい健康保険証が届いた。

同封されていた用紙には、その保険証の説明が書かれているわけだが、サンプルの名前に

「健康たもつ」

と書かれていた。 

なかなか秀逸だと思った。

こういうサンプルにはよく「太郎」とか「花子」が使われる。

免許証のサンプルは「日本花子」だ。

であれば、保険証のサンプルも「健康太郎」でも「健康花子」でもいいわけだ。

そこをなぜ、「健康たもつ」としたのか。

実在する名前に該当するから止めよう、となったのではないか。

「健康太郎」という名前の人はいないが、「けん・こうたろう」という人がいるかもしれない。剣 光太郎とか、研 孝太郎とか。

全国にいる「けん・こうたろう」さんに対する配慮として、「健康太郎」は良くないのではないかと。

じゃあなにがいいか。

お役所内で、サンプルに記載する名前会議、というのがあったに違いない。

「保険喜久蔵というのはいかがでしょうか」

「喜久蔵というのは、いささか古くさくないかね」

「では、元気盛蔵はどうですか」

「その、蔵をつける癖なんとかならんかね」

「保険適応と書いて、サンキュー7割と読ませるのはどうでしょう。キラキラネームです」

「それは脈絡がなさすぎる。掛捨万歳と書いてホケンマンセーというほうがいいですよね課長」

「キラキラネームはやめてくれんかね。子どもからお年寄りまで読みやすく、わかりやすくだよ」

「頑丈太郎はどうですか」

「なかなかいいじゃないか。矢吹丈のようだな」

「自分は空条承太郎を想起しました」

「誰だねそれは。僕らの時代はなんといっても矢吹丈だよ君」

「課長、ジェネハラです」

「そうか」

「元気万太郎はどうですか。女性用には元気万子」

「佐々木くん。セクハラよ」

「では元気満々子」

「課長、笑ってないでご注意を。議事録につけてますよ」

「ちょっと待ってくれ。万子の件だけは削除してくれんかね」

「課長ここで強く笑う、と書いたところです」

「後生だ。万子の件だけは。だいたい、佐々木くんが言ったことじゃないか」

「僕は卑猥なつもりで言っていません。頑丈太郎が良かったと課長が仰られたので、健康に前向きなイメージを考えました。そこで生まれたのが元気万太郎であり、元気万…」

「それならば元気太郎という発想はなかったの?わざわざ万をつける理由はないわ」

「万をつけないと、元 喜多郎という、実在するかもしれない人と被ってしまうじゃありませんか。研 孝太郎と同じです」

「一理あるわね」

「でしょう。元 木万太郎という人はいないと思われますし、元 木万子なんて人もいないはずで」

「そうね」

「前向きなイメージと、実在するかもしれない方への配慮から生まれたのが元気万子です。卑猥に取るほうがセクハラなのではないかと自分は思います」

「ごめんなさい。私ったら」

「わかればいいんです」

「まあまあ君たち、そのあたりにしておこうじゃないか」

「では課長、議事録はそのままということで」

「それだけはやめてくれ」

なんて会議から生まれたのが、健康たもつなのではないだろうか。

保険証サンプルには、こんな名前もあった。

健康まもる

だ。

けん こうたもつ
けん こうまもる

どんな読みをしても、実在する人と被らなそうだし、前向きなイメージもあり、子どもからお年寄りまでわかりやすい。

素晴らしい名前である。

世の中にあるものすべては、どこかの誰かによる真面目な会議の話し合いから生まれているのだ。 

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