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実話怪談 第六話 『読書の時間』

日本には「八百万の神」の信仰がある。
何年も使い込んだ物には魂が宿るという日本古来の独特の考えである。
一時期話題となった「髪の伸びる人形」などは物に魂の宿った典型的な例だと思う。
人の形をしたものや霊を呼び寄せ宿りやすいものというのは実は自分たちの身の回りに結構あり、人形だけでなく怪談を語ったりそれを集める場合もその例に漏れないのかもしれない。


中学時代の友人Kさんからご提供いただいた話だ。

自分たちが中学生の頃、朝のホームルームの前に30分ほど読書をする時間が設けられていた。
当時Kさんは図書室にある好きなジャンルの本はほとんど読みつくしてしまっており、その時間に読む本を探し悩んでいた。
そんな折、友人が話しかけてきた。

「この本ね、怖い話がたくさん載っていて面白いよ。貸してあげる」

そういうと友人は一冊の本をKさんに差し出してきた。
その本はどこにでも売っているような普通の本で、ちょうどいいタイミングだと思いKさんは差し出された本を借りることにした。

「ありがとう」

お礼を言って本を受け取った瞬間である。
涙目になるほどの強烈な寒気に襲われたそうだ。

もちろんKさん自身に持病などはなくその日は体調も良かった。
それに天気もよく気温も低くなかったのだが……。
何が原因か一切わからなかった、ただ一つだけ考えられるのがたった今受け取った一冊の本。

(まさかね……)

突然のことに驚いたKさんだったが、友人からの厚意を無下にするのも申し訳なかったので、再度礼を言うとその本を持ち教室へ戻った。

本はいわゆる怪談の短編集で、内容としてはかなり本格的な話が収録されていたそうだ。
何編か読んだそうだが、そのどれもが実際の体験談を元にした「実話怪談」だったとのこと。

読書の時間が終わり、友人にその本を返しに行ったときである。
本の内容が実際に起こった話かどうか疑わしく思ったらしく何の気なしにKさんは、

「ねえ、この本の話って実際にあった話じゃないよね?」

と、冗談交じりにとりとめのない質問を投げかけた。
しかし、それを聞いた友人は、

「え、全部実話だよ?」

そう真顔で答えたそうである。
その時の顔と口調はまるで別人のようで、何かに取り憑かれているかのような印象だったそうだ。

残念ながらKさんは本のタイトルを覚えていないという。
その本は先に書いた通り何処にでも売っているごく普通の本だったようだが、その本に霊が宿っていたのか、それとも、本そのものがこの世に存在しないものだったのかは定かではない。

どちらにせよ、得体の知れない本だったということに変わりはない。

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