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ベトナム新労働法(2021年1月1日施行)

はじめに

 ベトナムの改正労働法が2019年11月20日に成立し,本年2021年1月1日から施行されています。昨年夏ごろから改正点を踏まえた就業規則等の変更の依頼も多く,実際,対応する改正点は多岐にわたりますが,本稿では,労働契約の形式・類型,試用及び普通解雇事由について概要を解説します。

1 労働契約の形式・類型
 
 旧法では,契約期間3ヶ月未満の短期業務を除いて,“書面(紙)”による労働契約の締結が義務づけられていますが(旧労働法16条1項),新法では,これに加えて,電子メールなど電子的なやり取りによる労働契約の締結を認めています。なお,口頭での労働契約の締結が認められていない点は,変更はありません。
 ベトナムにおける労働契約は,旧法では次の3類型が認められています(旧労働法22条1項)。これに対し,新法では,③を廃止し,②について最短期間を廃止しています。この結果,新法下では,①期限の定めがない労働契約(いわゆる正社員)と,②36ヶ月以下の期間の定めがある労働契約(いわゆる契約社員)の2類型となり,業種を問わず,12ヶ月未満の期間の定めがある労働契約が締結できるようになります。
 ①期間の定めがない労働契約
 ②期間の定めがある労働契約(12ヶ月以上36ヶ月以下)
 ③期間の定めがある労働契約(12ヶ月未満)

2 試用
 
 旧法では,試用に関する契約と労働契約は別個の契約という建前をとっており,試用の結果が「当事者で合意した条件」に達した場合には,使用者は,試用期間満了後,その労働者と,新たに労働契約を締結する義務を負うとされています(旧労働法29条)。
 これに対し,新法では,使用者と労働者の間で試用に関して合意が成立した場合,労働契約書の中で「試用」に関する規定を設けるという,日本に似た制度も選択できるようになりました(従前どおり試用契約を別個に締結することもできます。)。
 その上で,使用者は,試用期間満了にあたり,労働者に対し,試用期間の結果を通知しなければなりません。使用者は,試用の結果が「当事者で合意した条件」に達したと判断する場合に,(試用が盛り込まれた)労働契約を継続しなければならず,別に試用契約を締結していた場合には,新たに労働契約を締結しなければなりません。
 他方で,使用者は,試用の結果が「当事者で合意した条件」に達しないと判断した場合には,締結済みの労働契約又は試用契約を解除することができます。
 また,試用期間について,現行法上の下記3類型に加え,新法は,新たに「管理職」として「180日」という長期の試用を認める類型を設けています。
①短大以上の技術又は専門レベルが必要な職種の業務 60日以内
②職業学校又は専門学校等の技術専門レベルが必要な職種の業務 30日以内
③その他の業務 6営業日以内

3 「普通解雇事由」について

(1) 旧労働法が規定する「普通解雇」事由
 
 使用者による労働契約の一方的解除,日本で言う「普通解雇」について,旧法は,次の事由を限定列挙していました(旧労働法38条1項)。
 a)労働者が労働契約に基づく業務の未完了を繰り返す場合
 b)労働者が傷病により一定期間(例えば期間の定めがない労働者は連続
  12ヶ月間)療養するも復職しなかった場合
 c)天災などの不可抗力によりやむを得ず生産・施設の縮小せざるを得な
  い場合
 d)労働者が,兵役,勾留又は産休など労働法32条に定める労働契約一
  時停止期間が終了して15日を経過するも,復職しなかった場合

(2) 新労働法において加えられた「普通解雇」事由

 以上に加え,新法は,下記事項を「普通解雇」事由に加えています(新労働法36条)。
 ①労働者が正当な理由なく5日連続で欠勤した場合
 ②労働者が誠実情報提供義務に違反しそれが採用に影響している場合
 ③定年退職年齢に達した場合

(3) ①労働者が正当な理由なく5日連続で欠勤した場合
 
 旧法は,「労働者が,正当な理由なく,1カ月のうちに合計5日又は1年のうちに合計20日を無断欠勤した場合」を,懲戒解雇事由としています(旧労働法126条3項1段)。
 新法は,これを懲戒解雇事由に残しつつ(新労働法125条4項),新たに「5日連続での欠勤の場合」について,懲戒委員会の開催等が不要で手続きが簡易な「普通解雇」事由としています(新労働法36条)

(4) ②労働者が誠実情報提供義務に違反しそれが採用に影響している場合

 労働者は,労働契約締結にあたり,氏名,生年月日,性別,居住地,学業水準,職業能力水準及び健康状態その他労働契約に直接関係する情報を誠実に提供する義務を負っています(旧労働法19条2項,新労働法16条2項)。
 労働者がこれに違反し,採用時に虚偽の情報を提供していた場合には,現行法では普通解雇できず,懲戒処分ができるに過ぎませんでしたが(懲戒解雇事由には該当しない。),新法は,これを「普通解雇」事由としています。

(5) ③定年退職年齢に達した場合

 定年退職年齢(旧労働187条,新労働169条)に達した場合に,現行法は労働契約の終了事由としていますが(旧労働法36条4項),新法はこれを使用者による判断が可能な「普通解雇」事由としています。

(6) a) 「業務の未完了を繰り返す」について
 
 新法は,一般的な普通解雇の理由として多いであろう,a) 「業務の未完了を繰り返す」について,その評価基準を定めるように義務付けています。
 もっとも,この点については,現行法下でも,政令(05/2015/NĐ-CP)12条1項にて,会社の規則(就業規則に限りません。)にて,「業務の完了」といえるレベルの評価基準を具体的に定めることが義務付けられており,この点については実質的な変更はないと思われます。

東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。