2020 第8節 : FC東京 VS サガン鳥栖

2020シーズン第8節、FC東京戦のレビューです。

結果

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(サガン鳥栖公式Webサイトより引用)

スタメン

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怪我人の発生やフィットメンバー模索などで、毎試合スタメン変更が発生しているサガン鳥栖。ベテランも若手もポジションを奪えるチャンスがそこかしこに転がっている状態です。今節は、前節から2名の選手を代えてきました。右サイドのハーフに運動量豊富で小回りも効き、攻守に的確なポジショニングを取ることのできる樋口、前線にはムラのない動きでトップのタスクはどんな事でもこなすユーティリティプレイヤーであるドンゴンがスタメンに名を連ねました。

FC東京の攻撃

立ち上がりから、両チームともにアグレッシブに前線からの守備を慣行。その守備をどうやって掻い潜るのかというのが序盤の焦点でした。

FC東京のビルドアップは両センターバックが大きく広がるポジションを取ってサイドバックを押し上げる形。鳥栖は両サイドハーフを高めに設定し、4-2-4のような形でプレッシャーをかけます。FC東京は、ひとまずは林や下りてくるボランチを使ってボール保持を継続しますが、プレッシャーで窮屈になると、ボール保持にはこだわらずに林がプレスをすっ飛ばすミドルレンジのフィードを送り込みます。

そこからの競り合いで勝って、フォワードにボールが収まってしまうと、FC東京の豪華すぎる前線のメンバーが華麗なコンビネーションを駆使し、あっという間に鳥栖のゴール前に迫りました。鳥栖の前線がプレッシングに出ると連動してボランチとサイドバックも前目にポジションを取ることにより、全体が前にでているところで早い攻撃を受けると、鳥栖にとってはボランチとサイドバックの帰陣が間に合わない状況が生まれるので一気にピンチに陥ってしまいます。

9分のFC東京の大チャンスはまさにこの典型的な例で、鳥栖は前線4人+ボランチを使って前から取りに行ったものの、小川へのミドルレンジのパスでプレッシング部隊を飛び越され、森下がハイボールの競り合いに参加し(負けて)、逆サイドの内田も戻りが遅れたことによって、最終ラインのメンバーが薄くなり、永井のスピードのある飛び出しからの崩しに追いつけずにディエゴオリベイラ、レアンドロという連続シュートを浴びてしまいました。結果的には、このシュートが決まらなかったことが、試合全体の大きなあやを生んだかなという所ですが、非常に効率的で確率性の高いFC東京の攻撃でした。

FC東京が比較的簡単にボールを前線に送り込む様子を見て、鳥栖がサイドハーフの位置調整を図ります。石井とドンゴンは適度に森重と渡辺にプレッシャーをかけつつ中央へのパスルートを監視します。樋口と小屋松は人数合わせで出ていくことはやめ、ミドルサードで待機の形が多くなり、自然と4-4のブロックを構成するようになりました。これによって、サイドハーフが前にも後ろにも両方を見る事のできる形になったので、前線の高い位置で奪ってからのショートカウンターという攻め手はなくなりましたが、ミドルレンジのパスで飛ばされてからのピンチというリスクも回避できるようになりました。27分には9分のピンチの場面と同様な形で、林が小川を狙ってミドルレンジのパスを送り込みますが、そのボールを樋口が下がってカットして今度はピンチを未然に防ぐことに成功しています。

鳥栖のプレッシャーが弱くなったのでFC東京はボールを持てる時間帯もできました。しかしながら、ボール保持の時間を作っても、ゴール前まで侵入する手立ては、ドリブルによるはがしと最終ラインからのミドルレンジのパスに頼る形が多くなり、鳥栖のボランチやセンターバックを動かしてスペースをねじ空けてよい状態でシュートを打てる形をなかなか作れませんでした。鳥栖の攻撃をいったん受けてからのカウンターの方が可能性を感じるので、前線に強い選手を置いている意図を見出すならば、ある程度鳥栖に攻めさせていた方がよいのかなという所でした。

鳥栖の攻撃

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カウンター攻撃の方が活路を見出しやすいFC東京にとっては、守備で焦る必要はないのかなと思ったのですが、鳥栖のボール保持に対して積極的に前線からのプレッシャーを仕掛けてきます。鳥栖は、前節では豊田が先発していたため、ロングパスも活用しながらの前進だったのですが、今節はドンゴンが先発だったので、よりショートパスでの前進が色濃いビルドアップでした。前線からの守備はこの影響があったのかもしれません。

鳥栖のビルドアップは、ボランチを下げずに高丘を使った3枚でボール保持を試みます。松岡と秀人が中央にいることによって、両サイドバックも含めてビルドアップの出口(パスコース)の数を増やそうとする形です。FC東京のプレッシングは、4-3-3のような4-3-2-1のような形。左サイドのレアンドロが前に出ていくケースが多く、右サイドの三田は中盤に残ってケアをします。

レアンドロが出てきてプレッシャーに来ることによって、鳥栖としては最終ラインでのボール保持が窮屈になりますが、永井、ディエゴ、レアンドロの3人が仕留めたいエリアや仕留めたい人物の設定がやや曖昧であったため、窮屈ながらもなんとかつなぎきるルートを確保できていました。

FC東京は、レアンドロの列を上げる動きに対して、中盤がバランスを取ろうとするのですが、いかんせん、幅を取る鳥栖の選手に対してまではケアが追いつかず、鳥栖のサイドチェンジで逆サイドのスペースまで展開できるとインサイドハーフを利用した前進も企画できていました。

FC東京の守備の特長は、鳥栖の2列目の飛び出しやサイドバックのポジション移動に呼応してセントラルハーフがマンマーク気味に鳥栖の選手を捉える動きです。人を捕まえることによって、ボールを受けとる前から自由を阻害する形を取ります。ただ、このセントラルハーフが動いて発生するスペースをケアする手立てが若干希薄で、FC東京の前線は完全撤退守備になった時には帰陣するのですが、少しでもカウンターのチャンスがありそうな状況では下がってスペースを埋めるよりも攻撃に備えて前残りするケースが多かったです。
「中盤のスペースはくれてやる。だけど守りきったときには速攻で仕留めてやる」
的な。殴り合いを挑む感じですね。

この現象により、鳥栖がゴール前に迫ったタイミングで、2列目の動きで相手のセントラルハーフを動かせると、5-3-2や5-2-3のような形になるケース…つまり、鳥栖にとってはバイタルを使うことのできるケースが多く作れました。このFC東京の守備の仕組みに対して、鳥栖の今節のメンバーのスペース認知力がうまくはまりました。ドンゴンは、センターバックとのデュエル真っ向勝負ではなく、サイドであってもスペースを見つけて移動してゲームメイクにも参画できるタイプの選手です。樋口もボールを足元に受けてデュエルで勝負するウイングタイプ(チアゴ、ヨンウ)ではなく、スペースを見つけて走りこむことによって自分がボールを受けるエリアでの優位性を作るプレイを選択できる選手です。

さらには、セレッソ戦でも触れたのですが、秀人はジョンスと異なり、前線にスペースを見つけると「松岡君、後ろは任せた」と言わんばかりに前線に飛び出す動きを見せます。FC東京の中盤は秀人の動きを見逃さずにケアに走ります。これを逆手にとると、FC東京の中盤を自分たちの意図のもとで動かすことが可能になるということです。序盤から、鳥栖の中盤が動いて空けたスペースを森下、内田がカットインしてシュートという場面が何度か見られましたが、この時点で、鳥栖の選手たちは、FC東京の最終ラインの前のスペースが使える事を認知していたと思います。

鳥栖の先制点

鳥栖の先制点もスペース認知の効果が出たものでした。松岡からの右サイドへの展開でワイドの位置で森下がボールを受けると、マークの為に出てきた小川のスペースを目がけてハーフスペースから斜めに樋口が走りこみます。2列目の移動は許さないFC東京としては、樋口に対して安部がついていく動きを見せます。ここまでは良いのですが、安部が引いて樋口について行って空けたスペースはどうするのかという問題解決ができていなかったことで、コーナーキックからの流れで残っていた内田、石井が上手にこのスペースを使うことができ、先制点を挙げる事になりました。得点に絡んだ全員の動きの共通点は、スペースを認知して走り込み、更に新たなスペースを生み出したことです。特に石井は、内田がシュート体制に入る前から引く動きでFC東京の最終ラインから逃れる動きを見せています。このほんの少しの動きが、シュートブロックを許さずにゴールを決めるポイントとなりました。

鳥栖の追加点

レアンドロのフリーキックで同点になってしまいますが(いろんな反省ポイントがありますね)、前半の終了間際に鳥栖が勝ち越し点を挙げます。鳥栖が右サイドでボール保持し、人の動きに対して敏感なFC東京は鳥栖の選手が集まっていた右サイド(石井、樋口、秀人、松岡)に対してFC東京も人を集中させて(レアンドロ、高萩、安部、小川)ボールを奪いに行きます。

ここでの問題は、中盤が高萩、安部まで使ってボールサイドにスライドしているのですが、三田がボールサイドによることができず、中央にスペースを空けてしまっていたことでした。ただ、逆サイドへ展開されたときのマネジメントを考えると、このスペースを埋めるのは必ずしも三田のスライドではなく、フォワードのリトリートであってもおかしくありません。それでも戻らないということは、鳥栖の攻撃ミスの確率が高く、攻撃に選手を残しておいた方がメリットがあると判断したという事ですよね。

サイドに人を寄せたFC東京に対し、このスペースを認知していた石井が、流れの中で残っていた森下を上手にヒールでボールを渡しました。このヒールが抜群で、森下に対して時間とスペースを与えました。クエンカのように相手を自分に引き寄せて時間とスペースを自ら作り出すやり方もあれば、石井のように創造性のあるワンタッチで時間とスペースを効率的に利用するやり方もありますよね。

さらに、ドンゴンと小屋松が裏のスペースに抜けそうな気配を醸し出す動きを見せていたので、渡辺も森重も彼らをケアするために森下に対するアプローチのタイミングを失い、ペナルティエリア外という事もあって、見て構える形になってしまいました。それも、森下の左足でのシュート力に対する判断ですよね。この距離であれば大丈夫であろうという算段はあったかもしれません。

森下がフリーの状態でミドルシュートを打つ過程には、鳥栖の選手全体の相互フォローによってFC東京の守備配置を決めさせ、そして作り上げたスペースを、全体のスペース認知力を使ってうまく活用出来ました。

FC東京のシステム変更

チョドンゴンの技ありゴールで追加点をあげた鳥栖。ここからはセレッソ戦で課題であった試合のクロージングを考える時間がやってきます。

FC東京は2点リードを許した段階で、左サイドハーフに内田、トップにアダイウトンを入れます。内田の投入はFC東京にバランスという効果をもたらせてくれました。小川のポジションに合わせて「サイドに幅を取る」「ハーフスペースにポジションを取る」を使い分け、鳥栖の守備の的を分散する形を作りました。内田が高いポジションをとることによって、鳥栖のサイドハーフが前にでづらい状況となり、FC東京のビルドアップのルートとしてセンターバックから小川を経由した形を確立させます。そこから小川、アダイウトンとの3人のコンビネーションで、チャンネル(センターバックとサイドバックの間のスペース)へのスルーパスや、大外からの前進という新たな形を作り上げます。82分には、オフサイドではあったのですが、ヘディングでゴールを決めるようなゴール前での絡みも見せます。

更に、守備の局面においても、「攻撃ときどき守備」であったレアンドロに対して、ネガティブトランジションの場面では、内田が中盤に下りてスペースを埋める事によって、全体の守備ラインがしっかりと4-4-2で構築でき形になりました。安部と三田が中央にポジションを取れるようになったことで、鳥栖にとっては中央のバイタルエリアの利用に関する機会損失につながりました。63分のように、森下がカウンターで上がろうとするスペースにいち早く戻ってカットしたプレイや72分のように森下が抜け出そうとしたシーンでのマーク(ファウルにはなりましたが)は、前半には見られなかった、サイドハーフが守備に貢献するシーンでした。高萩は内田が最初から入っていたら苦労していなかったのかなという感じで、交代に関しては、若干割を食った感があります。

鳥栖は、2点リードしていることもあり、前半に前線への押し上げを担っていた秀人が、最終ラインでや相手フォワードの脇のエリアでのボール保持に時間を費やすようになります。FC東京のシステムと選手変更によって、前半利用していた「レアンドロの裏のスペース」「セントラルハーフが動いたあとのバイタルエリア」という武器も失ってしまったので、攻撃が完結する前にボールロストするケースも増え、次第にFC東京がボールを支配する時間が増えてきます。

試合終了間際は高丘が対処に手間取ってやや不運な形で失点してしまいますが、何とか逃げ切って今季初勝利を挙げる結果となりました。

おわりに

この試合は正直、どちらに転んでもおかしくない試合でした。得点を取れはしたのですが、それ以上に取られるピンチがあった事も事実です。配置上、互いに攻撃側が優位に立てる様相になるように挑まれた試合で、幸運にも先に点を取れたことで精神的に優位に立てたかと思います。

その中で、相手からスペースを与えてくれると、ショートパスを駆使したビルドアップと最終ラインを押し下げるランニングとで、前進してチャンスメイクできる力がしっかりと身につきつつあると言うのはうれしい発見ですよね。ただ、名古屋やC大阪のようなソリッドな守備(スペースのない統率された守備)をこじ開けられるかといえば、まだまだワンタッチを駆使したパス交換など、狭いエリア内での連動性が必要でしょう。

秀人がボランチに入って2試合目ですが、彼の度々見せる中央からの推進が、名古屋戦のレビューで述べた、いわゆる攻撃における「カオス」を生み出す原動力になっています。中央からの裏への飛びだし、松岡との縦の関係の作り方、そしてドリブルによるはがし、相手の守備組織に揺さぶりをかけて、規律と異なる動きを求めるトリガーとなる動きですね。FC東京は2列目が動く守備だったので、秀人の動きが有効に作用してチャンスメイクにつながりました。

FC東京は、人を守る守備とスペースを守る守備のバランス修正に着手するのか、それとも攻撃で殴り勝つ形を更に追求するのか、チームの行く末をどういう方向に持っていくのかというのは興味深いですね。ただ、いまのままだと、強敵に楽勝する可能性もあれば、思わぬ伏兵に惨敗を喫してしまう可能性の両方を感じます。それが、勝ち点の積み重ねという長いシーズンでどう影響するかですね。ホームでの対戦時にどういうチームに変化しているのか、ある意味楽しみです。

鳥栖はやっとつかんだ今期の初勝利ですが、まだまだ狙いとするサッカーは完成していません。固定できる先発メンバー(レギュラーメンバー)が確定するまではこれからも金監督の模索の日々は続くと思います。中野君が守備固めで出場したように、過密日程でスタメン交代も選手交代も頻繁に行われるので、出場する機会があった選手はしっかりとアピールしてポジションをつかんでほしいですね。それこそが、チームの総合力を高めることのできる競争に繋がります。

■ Appendix < ざっくり用語解説 >
・ ビルドアップ
ゴール前にボールを運ぶための仕組みづくり(パス交換の仕組みづくり)

・ トランジション
攻守の切り替え

・ ポジトラ
ポジティブトランジションの略。守から攻への切り替え。

・ ネガトラ
ネガティブトランジションの略。攻から守への切り替え。

・ ハーフスペース
4バックだとセンターバックとサイドバックの間。3バック(5バック)だと両ストッパーの位置

・ デュエル
相手との1対1のマッチアップ

・ ディフェンシブサード
フィールドを3分割したときの自陣ゴール側

・ ミドルサード
フィールドを3分割したときの中央

・ アタッキングサード
フィールドを3分割したときの相手ゴール側

・ リトリート
自陣に引いている状態、もしくは自陣に下がる動き

・ レイオフ
ポストプレイからの受け手が前を向けられる落としのパス

・ オーガナイズ
組織化されていること。チームとして秩序が保たれている事

・ 偽サイドバック
サイドバックがポジションを変えてセントラルハーフのような役割を演じる事

・ チャンネル
センターバックとサイドバックの間のスペースの事

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