ガルベスレビュー サガン鳥栖VS川崎フロンターレ&名古屋グランパス
諸言
リバプール大学のローガン・テイラー博士は、とある講演会で受講者に対して、「プロサッカークラブは観客に何を売っていますか?」と尋ねたという。通常は「夢を売っている」「熱狂を売っている」と普通は答えるであろう。しかし、テイラー博士は、「プロサッカークラブはストレスを売っているんですよ」と答えたという。
果たして、本当にプロサッカークラブはストレスを売っているのか?そこで、今回は検証を行ったので以下に報告する。
ストレスとは何か
ストレスという用語は、もともと物理学の分野で使われていたもので、物体の外側からかけられた圧力によって歪みが生じた状態をいう。ストレスを風船に例えると、風船を指で押さえる力をストレッサーと言い、ストレッサーによって風船が歪んだ状態をストレス反応という。医学や心理学の領域では、こころや体にかかる外部からの刺激をストレッサーと言い、ストレッサーに適応しようとして、こころや体に生じた様々な反応をストレス反応と呼ぶ。
ストレッサーには、暑さ寒さや有害物質など物理的・科学的なもの、病気や上・睡眠不足などの生理的なもの、職場や家庭における不安・緊張・恐怖・怒りなどの心理的・社会的なものがある。この中でも特に、心理的・社会的ストレスが大きいとされている。
ストレスが生じた際の身体の反応
ストレスが生じると、体内ではそれを解消しようとする様々な防御反応が働く。例え、同じストレスであっても、受け止める人によって「良いストレス」になるか「悪いストレス」になるのか異なるとされている。ストレッサーをうまく制御できた場合には「適応」という様態をとるが、うまく制御できなかった場合には、不適応を起こして、身体に様々な影響が現れる。心身症としての消化性潰瘍や高血圧、気管支喘息など。精神面においては不安や抑うつ、錯乱状態などの様々な反応性精神障害を引き起こす。心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス反応などもそういった不適応反応の1つである。
我が国におけるストレスの現状
少子高齢化、団塊世代の大量退職、成果主義の導入、国際競争の激化、人員削減による負担増大、経済状況の悪化など、近年働く人々を取り巻く環境は大きく変化している。こうした変化に伴い、仕事でストレスを感じる労働者の割合や、ストレスの内容も変化してきた。
厚生労働省が5年に1回行っている「労働者健康状況調査」によれば、「仕事や職業生活でストレスを感じる」労働者の割合は1982年が50.7%だったのに対して、2012年の調査では60.9%まで増大している。また、この割合を年代別に見てみると、30歳代・40歳代のいわゆる働き盛りの年代のストレスが高く、この傾向は男女ともに共通している。
ストレスの内容を具体的にみると、人間関係が最も多く、仕事の質、仕事の量と続く。
調査方法
スマートウォッチ(ガーミン社VENU3)を着用し、ストレスレベルを測定。
症例紹介
38歳独身男性。独居。168㎝、66kg。
FIM125/126点(原点項目:社会的交流-1)
B.I100/100点
MMSE30/30点 MoCA‐J30/30点
日常的な運動習慣なし
趣味:スポーツ観戦、AV鑑賞
口癖:「辛い」「疲れた」「もう止めたい」「帰りたい」「お布団に入りたい」
結果①
上記のグラフは上から、労働時、休日、ジュビロ磐田戦(DAZN観戦)、川崎フロンターレ戦、名古屋グランパス戦のそれぞれのデータを示す。データより、休日のストレスレベルよりも労働時、さらにサッカー観戦時のストレスレベルがより強度である事が分かった。
結果②
表A〜Cについては、試合結果とストレスレベルの関係を示している。
名古屋グランパス戦おいては、サガン鳥栖が一人退場者を出した上に、ほぼ良いところなく敗戦しており、ストレスレベルも他の時間帯よりも大きくなっている。ジュビロ磐田戦および川崎フロンターレ戦においては、ともにサガン鳥栖が3得点以上を記録し、いずれも勝利しているが、敗戦した名古屋グランパス戦同様に、他の時間帯よりもストレスレベルが高くなっている。以上の結果から、勝敗の有無とストレスレベルについては相関関係が無い事が証明された。
考察
今回、一般成人男性(以下A氏)を通して、「サッカークラブはファンにストレスを売っているのか」についての検証を行った。上述した結果より、サッカー観戦時は休日よりも高く、労働時と同様かそれ以上のストレスが加わっているという事が分かった。また、加わるストレスレベルは勝敗とは相関関係が無い事も証明された。
テイラー博士は以下のように続けている。「支持するチームが先制されれば心を痛める、勝ったとしても次は負けるかもしれないと不安になる、こんなことで一部に残留できるのだろうかと思い悩む。いつになっても心は休まらず、苦しみは続く。例え優勝したとしても新シーズンに入れば、今季は大丈夫だろうかと新たな苦痛が始まるはずだ。」
テイラー博士の言葉や、今回得られたデータでは、サッカークラブはファンにストレスを売っているのかも知れない。では、我々サポーターはストレスを買っているのであろうか?商売・売買というのは売り手と買い手があって成立する。
A氏は贔屓のチームを30年近く応援を続け、ホームゲームはほぼ毎試合現地で観戦し、アウェイゲームも時折参戦している。なぜそれほど多くのストレスに晒される必要があるのであろうか。A氏がややマゾヒスティックパーソナリティ(所謂M)があり、定期的にM性感で異性にいじめて頂いている影響もあるのであろう。
パナソニックの創業者である松下幸之助の言葉に「商売とは感動を与えることである」がある。贔屓のチームが得点した時や勝利した時の感動は時に身体に加わるストレスを軽く凌駕する時がある。スタジアムで味わう、あの日常では決して味わうのことできない非日常感は一度知ってしまうと抜け出すことができないのである。
確かに、サッカークラブはストレスを売っているのかもしれない。しかし、我々サポーターはストレスを買っているのではなく、苦悩を乗り越えた後の感動や夢を買っているのではないだろうか。
症例紹介の項で述べている様にA氏は「きつい」「もう辞めたい」とネガティブな言動が目につくことが多いが、サガン鳥栖の試合が近づくとワクワクし、目が輝く様になり、仕事にも精を出しているという。こういったことから、ストレスを与えられている対象であるサガン鳥栖という存在がA氏にとって生きるモチベーションになっているのではないだろうか。
水の流れる音を聞いたり、水が流れる様子を見るとストレスを緩和し、リラクゼーション効果がある事は広く知られている。試合前やハーフタイムに行われる散水についても、ピッチコンディションを整える以外にも、リラクゼーション効果により、ストレスレベルを低下させる事を狙って行われているのではないかと推測する。
結語・謝辞
今回の論文を作成するにあたり、ご協力頂いた方々、ご指導・ご鞭撻頂いた諸先生方に謝意を述べ、今回の報告とさせて頂く。
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