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『なぎさボーイ』手書き原稿のこと

Amazonに『氷室冴子とその時代』が入荷したらnoteの更新をはじめよう。そう思いつつもありがたいことに発売直後に入荷した分があっという間に完売してしまい、以後再入荷がないまま時間が流れていました。本日ようやく在庫が反映されたので、これから「氷室冴子とその周辺」を更新していきます。大変お待たせいたしました。

今日は初更新ということで、貴重資料をご紹介します。この本を執筆するために資料調査を進めましたが、出会った資料のなかでもレア度の高いものの一つがこの『なぎさボーイ』手書き原稿の複写です。複写をさらに複写したものをいただき、私の手元には『なぎさボーイ』原稿が5枚分あります。

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氷室読者のなかでも、氷室さんの手書き原稿を見たことがある方はあまりいないのではないでしょうか。私もこれが初めてで見た時は興奮しました。氷室さんの代表作の一つである『なぎさボーイ』収録の第三話、書き下ろしに当たる箇所の原稿です。『氷室冴子とその時代』第6章の「氷室冴子の仕事道具」のなかで、この手書き原稿のことを紹介しました。ただし諸般の事情で写真を書籍に収録していないため、このnoteが初公開となります。

写真でも確認できるように、『なぎさボーイ』は市販の紀伊國屋製原稿用紙に書かれています。のちに氷室は、「氷室冴子」の名前入り特注原稿用紙をオーダーしました。おそらく満寿屋製であろうその特注原稿用紙の写真は第6章に掲載したので、書籍でご確認ください。

氷室さんは金銭的に余裕ができた時点で特注原稿用紙をオーダーしたようです。しかしながら1986年からワープロ執筆に移行したため、せっかく特注した原稿用紙を使った期間は短かったと思われます。氷室さんの死後、自宅からは未使用の原稿用紙がたくさん見つかっており、その一部を氷室さんのご友人寺尾敏枝さんからいただきました。こちらも作家氷室冴子の資料として大切に保管しています。

ワープロに移行以降の氷室さんはデータをマメに保管していたようで、『冴子の母娘草』では母親宛、『マイ・ディア 親愛なる物語』では友人に宛てた手紙が収録されています。ところが氷室さんの遺品にはそうしたデータ類は一切なく、未発表原稿や草稿類も残されていないとのことでした。ご自身のご病気が発覚した以降のある時点でデータを消去したのではないでしょうか。一読者としては非常に残念ではありますが、氷室さんらしい潔さだなとも感じます。結果的に原稿や草稿が残されていない現状では、『なぎさボーイ』手書き原稿(の複写)は貴重な資料です。来年の氷室冴子を偲ぶ会にこの原稿を持っていくので、その時にファンのみなさんにもぜひ見ていただけたらと考えています。

『なぎさボーイ』は『多恵子ガール』と対になっており、視点の移動を取り入れた手法で執筆された作品です。思春期の少年少女の恋愛を描いたラブコメという読みやすさの裏には、高度な小説技法が注ぎ込まれています。漫画家の青山剛昌も『なぎさボーイ』から影響を受けた一人で、オマージュともいえる連作「蘭GIRL」「新一BOY」を発表しています。『なぎさボーイ』はエンターテインメントの世界に少なからぬ影響を与えており、個人的には再評価されるべき作品の筆頭と考えています。そんな作品の手書き原稿が残っている奇跡に感謝を。これをきっかけに、『なぎさボーイ』シリーズがまた注目されますように。

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ライター・大学非常勤講師。リアルサウンドブックなどで執筆中。著書に『氷室冴子とその時代』(小鳥遊書房)、『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』(彩流社)など。連絡先→sagakeiko@gmail.com

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