遺した物にも性格が出る
オットは,半年前に退職し,そして先月に病気で亡くなってしまった。
職場から持ち帰った荷物の整理もできないまま去ってしまい,リビングの隅に段ボール箱が積まれていた。段ボール箱に見下ろされて暮らすのは窮屈なので,少し整理することにした。
整理と言っても捨てて分量を減らすより,内容を確認して分類することが目的だ。出張先の観光パンフレットのような明らかに処分すべきもの,縁がある人に譲るべきものを取り出し,本は棚へもどし、その他はまた箱にしまう。
大きな箱を開いたら,オットが情熱を傾けていた仕事の資料が出てきた。大きなプロジェクトや,自分の興味関心があり勉強して集めた文献など。
この仕事はこんなことを苦労していた,この仕事ではこんな人の話をしていたなと思い出し,ああ誠実に仕事をしてきたのだなと感傷にふける。
さらに冊子やファイルを取り出すと,下から何やら書類ではないものが見えた。
何だ?
それは大きな缶に入った10年前に賞味期限が切れたお菓子。そのほか6年前の出張土産のお菓子の箱が包み紙も開けないままに。
”これ,普通は家に持ち帰らないで捨てるよねぇ!”
職場で捨てたら、みっともないと思ったのかな。
かつてはよく歩道で配られていたポケットティッシュも、20個くらい。
もったないがりで捨てられない,溜め込む性質は,こんな荷物の箱からも窺えるのだと思うと,おかしい。
そして、職場に置いていた歯磨きセット。一度捨てたが、歯ブラシの毛先が曲がった様子に夫の残像が重なり、やはり取り戻した。
こうして荷物の整理をしていると,いまだにオットの世話を焼いているようだ。することがないと寂しくなってしまうから,無意識に手を動かす仕事を見つけているのかもしれない。
ようやく片付けが一段落したと思ったら、夫あてに宅配便が届いた。
それは夫が応援していたバンドのTシャツ。
なぜ亡くなって1ヶ月近く経つのに?
同封された納品書を見ると、亡くなる1ヶ月以上前に発注している。予約販売の商品らしい。
届いたことも知らないまま、逝ってしまったじゃないの! いったい誰が着るの?
それに,せっかく片づけていたのにモノを増やすっていう,平気な顔して人の手間を増やすところは元気な時と変わらないんだけど~(笑)
段ボール箱を開け,Tシャツを祭壇の横に供えて報告した。
オットからの最後の贈り物がバンドのTシャツか。
私はネックレスかエプロンが欲しかったのにな。自分の好みの物をプレゼントするところは,彼らしい。
お線香をあげて,いつもより大きな音で鈴(リン)を鳴らした。
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