「伝える」≠「伝わる」       スポーツライティング講座の実況中継 第1回①


(ライターの佐伯要が主宰する『スポーツライティング講座2020』。2020年2月に開催された、第1回の内容の書き起こしを修正・加筆したものです)


まずは自己紹介
ライターの佐伯要と言います。今日からよろしくお願いします。

私は2009年までスポーツメーカーで営業マンとして働いていて、2009年の春に会社を辞めて、その秋にライターとしてデビューしました。

私自身も2008年にこういうライター講座に参加していました。ライターの川端康生さんが湘南ベルマーレが主催するマスコミ塾で講師をやっておられて、そこで半年ほど勉強しました。それが最後の一押しだったのかなと思っています。

ここにいらっしゃっているみなさんがどれだけライターとしてデビューできるか、わかりません。もしかすると「ハードルが高いな」と感じているかもしれません。でも、私も2008年は講義を聴く側でした。10年経ってこうして偉そうなことを話すのですが、この講座では10年ちょっとの経験をお伝えしたいと思います。

この講座でこれからお伝えしていくこと。カリキュラムはあらかじめお知らせしていますが、そのなかで枝葉のテクニックみたいなことではなく、本質というか、基本の基本をお伝えしたいと思っております。

もちろんテクニックみたいなものもお教えしていくのですが、そこはあまり重要ではないです。それはやっていくうちに自然に身につくものだし、100人いれば100通りのものがあるというか、正解はない。それよりもライターとしての心構え、考え方を吸収してほしいと思います。

おそらく、何回も同じことを言うと思います。私が同じことを言えば言うほど、それが大事なことなんだと思ってください。たまに、何を言ったか忘れて、ただ同じことを繰り返してしまうかもしれませんが(笑)

プロ野球選手の話を聞いても、どんなに一流の選手になっても、キャッチボールや基本練習の反復が絶対に大事だと言います。それと同じで、ライターとしてデビューしてからも基本を忘れないようにいてほしいと思います。私もこうしてお教えすることで、その基本を思い出すというか、初心に帰るということもあります。みなさんにお教えしながら、自分も学び直してやっていこうと思っています。

早速ですが、今日は、まずみなさんの自己紹介をして頂きます。1人3分以内。そのあとにインタビュー実習をする予定なのですが、そこでは2人一組になって、お互いをインタビューしてもらいます。自己紹介では、その人が誰で、どんなことをしていて、何の仕事をしているかという基本情報はインプットしてください。ですから、これからする自己紹介ではお名前と、今、何をしている人なのか、これからどうしたいのかを伝えてください。実習で誰と組むかはわからないので、他の7人のことがわかるように、メモ取るなり、録音してもいいです。

(自己紹介)

20200207講義の写真(加工済み)

量が質に転化する
受講生はこの8人。ライバルというよりは、仲間です。一緒に学んでいく人たちということになると思っています。
今日からみなさんがいろいろなことを経験したり、知識を吸収したりするなかで、昨日の自分より今日の自分、今日の自分より明日の自分という形で、少しずつ積み重ねていってもらえればいいかなと思っています。

私の経験上、ある一定のところまでいくと、急にパーンっと自分のステージが上がる瞬間がくると思います。それがいつ訪れるかは、人によって違うかもしれません。
例えば私がライターを志したときの話。サッカーの試合を100試合ほど観て、その試合後に監督や選手の話を聞く経験を積み重ねたときに「サッカーって、こういうものなのか」「取材って、こういうものなのか」と、今までわからなかったことが急にわかった瞬間がありました。まるでコップから水が溢れるように。

「1万時間の法則」と言いますが、そういう積み重ねで、そういう瞬間がくると思いますので、それを信じて、自分を磨いていってもらえれば、と思います。

では、ここから講義入ります。
最初に一番大事なことを言います。

「伝える」≠「伝わる」
「伝える」ということと「伝わる」ということは似ているけど、まったく違います。伝えるというのは、あくまで自分から何かを発信するだけ。言いっぱなしでも伝えたことになります。でも、それが相手に届くかどうか。

「心に響く」でもいいし、「アクションを起こす」でもいいし、「泣く」でも「笑う」でも、なんでもいいのですが、相手が動くことではじめて、「伝わる」ということになります。例えば、仕事上の連絡でも、約束の時間どおりに相手が来るということを含めて。

ここにいるみなさんが目指すのは、おそらく日記でスポーツのことを書きたいということではないでしょう。誰かに読んでもらいたい、伝えたい。そういう思いがあると思います。そのときに大切にしてほしいのは、

「自分が伝えたいコト」という円と「読者が知りたいコト」の円の、重なる部分を意識する

ということです。

ブログでも、誰も見なくていいのなら、自分のノートに書けばいいし、鍵をかけて誰にも見せないようにすればいいというわけで。
でも、世界中の人に、少なくとも日本語が読める人に読んでもらおうというのであれば、前提として「読者」が想定される。

読んでくれている人に「伝える原稿」ではなく、「伝わる原稿」を書くためにはどうするか。それがこの講座の最大のテーマです。
その時に、この円の重なる部分をいつも頭に思い浮かべてほしい。書き手が伝えたいこと、つまり自分が何を言いたいのか、何を書きたいのかということ。それと、読者が知りたいこと、読みたいこと、求めているもの。この重なる部分で書く、伝えるということです。

世の中の伝わらないブログやnoteは、よほどの有名人のものでない限り、読者が知りたいことではないものはスルーされてしまいます。誰かに読んでほしいのなら、自分が伝えたいことだけではなく、「読みたいものは何かな」ということも考える。

これだけ情報が溢れかえっている世の中で、読者は果たして自分のものを読んでくれるのか。どういう人が自分の文章の読者なのか。考えてみてください。

それは、たぶん何らかのファンなのです。例えば、あなたがアイドルであれば、自分のファンに「昼ごはんに何を食べたよ」とか、「空が綺麗でした」ということでファンは喜んでくれると思います。でも、佐伯要がラーメンを食べた話って、みなさんは興味がないですよね? もしかして「ある」って言ってくれる人がいたら、うれしいような、ちょっと気持ち悪いような感じですけど(笑)。

ファンの人は何を知りたいのか。
大学野球のファンは何を知りたいのか。神奈川の高校野球ファンは何を知りたいのか。ビーチスポーツのファンは何を知りたいのか……ということを意識する。そのときに考えなければいけないことが2つあります。

「より深く」を追求していく
一つは、より早く。他の誰よりもその情報を出せるかどうか。

二つめは、より深く。他の誰よりも深い情報、誰も知らなかった情報を読者に与えられるかどうか。
例えば、野球の試合でいうなら、誰かがヒットを打って笑顔を見せた。その笑顔の裏に何があったのか。「昨日の夜に誰かのアドバイスがあって、その通りに打てた」とか、「直前にコーチに何かアドバイスをもらったから打てた」とか、「昨日の夜に死ぬほど素振りして手の皮が擦り剥けたけど、打てた」というようなところまでいけるか。

この二つで「より早く」つまり、他の人よりも早く書くのって、難しくないですか? 試合の結果、「A高校がB高校に何対何で勝ちました」というのは、試合が終わる直前からツイートの準備をしている人かいるはずです。ライターはそれに勝てるのか。たぶん勝てないです。

WEB媒体で書く場合でも、掲載されるのは早くてもその日の夜ですよね。それまでに絶対、誰かしらが結果を呟いているはず。もっといえば、すでにネット中継で見ているかもしれない。それに対して、誰がヒットを打って勝った――という情報は必要なのか。いらないですよね。それはもう知っていることです。

では、何を知りたいのか。そう考えたときに「より深く」。打者走者の一塁ベース上の笑顔の裏にあるもの、というような。そこを書けるかどうか。それが読者を知りたいことに繋がるということであり、読者により伝わるということです。

「誰よりも早い」を目指すというのも一つですが、みなさんが目指すべきは「誰よりも深く」というところ。では、「より深く」というところで、どんなことすればいいのか。それを、今後、この講座でやっていきます。

では、ちょっと視点を変えて。
なぜ伝わらないのか?               (第1回①終了)


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