野球の観方②~学生スポーツ記者のための『スポーツライティング講座』講義録より~

試合前の準備

では、みなさんが試合前にしていることはなんですか?

僕は試合前の練習を見ています。
練習は、第1試合の試合開始の1時間30分前から始まります。

プロ野球を取材する記者は試合前の練習を見るのが当たり前なのですが、
アマチュア野球担当の記者でこれを見ている人は少ないんですよね、なぜかはわかりませんが。

試合前のフリーバッティング。「ゼッタイに観なきゃダメ」というわけではないけど、観ると色々なヒントが得られます。

その選手は今日、どんな調子なのか。

今日の相手の先発が予想される投手に対して、どんな対策をしようとしているのか……などです。

例えば、とにかく逆方向へ低い当たりを打とうとしている、とか。そういうシーンを見ていると、試合でもそういう打撃が勝負を分けることがあります。

そんなとき、試合後の取材で、「今日の試合前、こういうバッティングしてましたよね」って訊いたとすると、選手は「そういうところをちゃんと見ている人なんだ」と信頼すると思います。

みなさんには、選手とそういう信頼関係が築いていってほしい。それは今日、明日でできるものではありませんが、信頼関係があるから訊けることが必ずある。いつか役に立つ日がくると思います。

試合前の練習を見て、技術的なことはわからなくても、雰囲気をつかむだけでも原稿に生かせることもあります。

今春の東京六大学野球。第6週の慶大対明大のカードは、勝ち点3同士の戦いでした。勝ち点を奪った方が優勝争いで一歩リードする。1回戦は4対3でサヨナラ勝ちしたが、2回戦では2対0で敗れました。

5月21日の3回戦の試合前。神宮球場では、午前9時30分から慶大の打撃練習が始まろうとしていました。
その練習をサポートする3、4年生の打撃投手や捕手たちが、バックネット付近で円陣を組みました。その円陣の締めくくりが「絶対に勝つぞ!」という言葉でした。

「勝たせるぞ」ではなく「勝つぞ」。その言葉を聞いただけでも、慶大の162名の全部員が一つになっていることがわかりました。

このことは『大学野球2018春季リーグ戦決算号』で原稿に書きましたので、読んでくださった方もいるかもしれません。


試合前に仮説を立て、試合中にそれを検証する

ここまでお話するのにけっこう時間が経ちましたが、まだ試合は始っていません! どれだけ試合前の準備が大切か、ということですね(笑)

試合前には、その試合の仮説を立てる。そして、それを試合で検証する。
これが大事です。

なぜ仮説を立てなければいけないのか?
みなさんは、グラウンドで起こってることを、視界の中で一度に全部把握できますか?
できないですよね。

ということは、どこかに絞って観るしかない。
では、どこを観るか?
それを決めるために、仮設を立てるんです。試合の展開や起こりそうなできごとにあたりをつけておく、ということですね。

まず、スタメン表を見る。
「ウチの大学のスタメンと相手のピッチャーなら、1点勝負になる」という仮説を立てたとします。

1点勝負になるなら、1点をもぎ取った選手の表情が大事ですよね。
5・6点勝負だったら、そこはいいから、投手を見ようとか。
仮説を立てると、そういうあたりがつけられる。

どこか一ヶ所しか見られないということは、それ以外のものはあきらめる、捨てるということ。覚悟を決めて、絞って観る。

何が起こったかはほかの人に聞けば何とかなると思うけど、写真を撮る人は「もう一回、塁上でガッツポーズお願いします」なんてできないですよね?

例えば、1点勝負の試合。0対0のまま、8回裏。
二死二塁から、八番打者がレフト前にヒットを打ったとしましょう。
そのとき、二塁走者が本塁へ駆け込んでくるのがクロスプレーだったから、そっちを見ていた。

でも実は、打ったバッターが、それまでの試合でチャンスで打てていなくて、悔しい思いをしていた。

そうしたら、一塁を回って「ホッ」としているのか、ガッツポーズしているのか……。そういう表情を見たいじゃないですか?

仮説をたてていれば、それができるかもしれない。
当たるか当たらないかはわかりませんが、そういう仮説を立てて準備をしてください。

一度に、一つしか見られない。では、どこを見るのか?
すごく切実なことなので、忘れないでください。

                         (次回へ続く)



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