野球の観方①            ~学生スポーツ記者のための『スポーツライティング講座』講義録より~

「何を観るか」ですべてが決まる

今日は「野球の観方」について、「どこを観るかで、すべてが決まる」という話をします。

あくまで「佐伯要」というライターの観方です。
「僕はこういう視点で野球を見ていますよ」ということ。
それが正しいと限らないし、別の観方もあります。

例えば、野球をやったことのない女性のライターさんで、野球について書いている人もいます。その人がどういう風に見ているのか。その人にはその人独自の観方があります。

みなさんは、普段スポーツの取材をして、記事を書いていますね。
その時に大事なのは、「どう書くか」よりも「何を書くか」。

例えば、次のどちらを読みたいですか?
①芥川賞作家が、何気ない一日について書いた、例えば「朝起きて、歯を磨いた。それから……」という話
②小学1年生の男の子が、初めておつかいに行った話

②のほうがきっと面白そうですよね。

どんなにうまく書こうが、「何を書くか」で読者をひきつけられるかどうかが決まってしまうということです。

この「何を書くか」を決めるためには「何を訊くか」。
「何を訊くか」を決めるためには、「何を観るか」が大事。
つまり、野球の試合で何を観ているかで、書き手の勝負は決まっているのです。

野球を「みる」ということ

「みる」にはたくさんある。見る。観る。診る。視る……。

例えば、僕がシーズンの終わりに『大学野球』(ベースボール・マガジン社)にチームレポートのような原稿を書くとき、「みる」には「診る」、「視る」が当てはまります。

みなさんが試合を「みる」ときに使うのは、「観察する」の「観る」。
そうとらえて、今日はお話をしていきます。

観ていないと訊けない。訊けないと書けない……という逆算です。
だから、何を「観る」か。

では、大前提です。
野球は、どういう風にすれば勝つゲームですか?

「9回終了まで相手より点数を多く取れば勝ち」。
こう言ってしまうと、すごく単純なゲームなんです、野球は。

だけど、不確定要素が多すぎる。
例えば、いい当たりを打ったとしても、真正面に飛べばアウトですよね。
極端にいうと、ポジショニングさえ合ってれば、フェアゾーンに飛んだボールはホームラン以外は全部アウトにできるわけです。

逆に、打ち取った当たりでもポテンと落ちればヒットになる。
もっというと、相手がエラーすることもある。

野球というのは、一球先がどうなるかわからないような、一瞬も目が離せないスポーツ。これが大前提です。

新聞記者の人のなかには、「7回から見てれば記事は書けるよ」と言う人もいます。
たしかに、そうかもしれません。
だけど、みなさんには1回表から9回裏まで、全球を見てほしいんです。
途中で昼ご飯を食べたり、スマホをいじったりしている暇はないよ、ということですね。

もちろん、写真を撮る人もいると思うので、全球、そういう観方ができるかどうかは別です。心構えとして、ですね。

そう考えると、野球を観るのは、けっこうしんどいですよ。
大学野球は、試合時間が2時間半から3時間くらい。
その間に何球くらい投げますか? お互い、両チームで投手が投げる球はだいたい300球くらいでしょうか。「その300球を、一球たりとも見逃すな」ということです。

もしかすると、たった一球を見逃したら、それが試合の勝敗をわける1球だったかもしれない。
そういう恐れを持って観てくださいね、みなさんは。

僕は「全球」というとウソになるかもしれないけど、スコアブックの他に配球のチャートも同時につけています。全球、球種と球速とコース、打球がどこへどんな当たりで飛んだかーーなどをメモしています。
     
 例えば、こんな感じで。

そして、そのときの選手のしぐさ、表情なども。
こういう観方をして、はじめて書けることがあるわけです。

さあ、大前提としての心構えのお話をしたところで、次は「試合前の準備」についてお話します。
                       (次回に続く)





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