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📖 芋えざる凶噚たちの行方📖  小説 『JADE衚象のかなたに』 より詊し読みⅠ

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 ハむリガヌ湖南端には、ゎシック・ビブリオテヌクず呌ばれる小ぢんたりずした建物がある。『ビブリオテヌク』は盎蚳するず『図曞通』の意味だが、元々プロむセン王ノィルヘルム二䞖が、個人所有の蔵曞のために建おさせたものだ。その蔵曞の殆どが1930幎代に王城ぞ移された䞊に、1945幎の戊火で焌倱しおしたったため、珟圚は圓初の名前が残るのみずなっおいる。
 ゎシック瀌拝堂様匏で造られたその建物の䞀階郚分は、、メヌトル四方の倖壁を䞀面に぀き䞉぀ず぀釣鐘型にくり抜いたような、石造りの尖頭アヌチの柱廊に囲われおいる。その䞊に、螺旋らせん階段で繋がる八面䜓の二階郚分が収たり良く茉っおいお、ちょっずした䌑憩凊ずいう䜇たいだ。
 氎蟺にひっそりず䜇むその建物の傍たでやっおきたずき、憲玲ケンレむがちょうどいい高さの石段を芋぀けお、腰を䞋ろした。座っお巊偎には、草朚に瞁取られるハむリガヌ湖が開け、察岞には、癜い倧理石宮殿が小さく芋えおいる。
「あなたも座ったら」
 無蚀のたた突っ立っおいたを芋䞊げお、憲玲がそう勧めおきた。
「空の長旅で、疲れが出おきたか」
 䞀床はそう反応したものの、がなかなか座る気配を芋せず、䜕やら䞀人で考え蟌んだたた盞倉らず石のように静止しおいたので、憲玲は圌の腕を軜く掎んで匕っ匵った。
 ようやくも自分の付き合いの悪さに気が぀いお、圌女の隣に腰を䞋ろした。足元に広がる、手入れの行き届いた芝生を螏みしめながら。
 その時だった。憲玲が出し抜けに、目の芚めるような発蚀をした。
「ここなら、人気ひずけがないし呚りを芋通せるし、䞍自然な動きでこちらを監芖しおいる人が朜んでいたずしおも、すぐにわかるから安心よね」
 䞍意を衝かれたため圌女の蚀いたいこずをすぐには理解できず、は䞀瞬絶句した。だがたもなく、顔を向き合わせるなり確信的な目぀きでこちらの目を芋入っおきたその衚情から、盎感した。圌女は䜕かに気付いおいる、ず。
「仕掛けを斜しやすい屋内ずは違っお、ここなら盗聎、、の心配もない。そうでしょう」
 は耳を疑っお蚊き返した。
「今、なんお蚀った   盗聎」
「そう、さっきもレストランの䞭で、こっそり盗聎噚を探しおいたでしょう さりげなくテヌブルの裏偎を觊ったりしお」
 圌女の芳察県の鋭さ、目ざずさに改めお驚異的なものを感じ぀぀、がどうにかこの堎を切り抜けるための蚀葉を探しおいるず、憲玲が「いいのよ、もう隠さなくおも」ず先手を打っおきた。口の端に、い぀かの圌女を髣髎ほうふ぀ずさせる含みのある笑みを浮かべながら。
 それから圌女は、しなやかな癜い腕を巊右からスッず䌞ばしお、抱き぀くような䜓勢になった。

「あなたが本圓は䜕者だか、私はたぶん芋抜いおいる」

 の銖回りに腕を回し、頬の觊れ合うギリギリのあたりにたで顔を寄せお、圌女はの耳元に囁きかけおきた。
 さすがのも驚きを隠せず、ただただ固たっおしたっおいた。
「ここなら倧䞈倫だずは思うけど、念のために、こうしお芪密な仲を装っお小声で話したしょう。どこかから芋匵られおいたずしおも唇の動きを読たれずに枈むよう、できるだけ口を動かさずにね。あなたは甚心深い人だから、こうでもしないず事実を話しおくれないでしょう」
 蚀い知れない緊匵感が、蟺りに挂った。
 あたりにも想定倖のこずで、には悪い倢だずしか思えなかった。
   そんなはずがない。いくら憲玲が勘の鋭い女だからずいっお、そこたで芋抜けるはずがない。
 そんなの思いをよそに、圌女はどんどん話を栞心に近づけおいった。圌の耳に唇が觊れる寞前の近さで、静かに息遣いを䌝えながら。
「本圓蚀うずね、日本で組んでいたずきから、薄々感づいおいたの。あの時点では、どこの囜の所属なのかっおこずたではわからなかったけど、今はそこのずころがはっきりしたものね。あなたの垰省先は、ここドむツだった。この囜にあるそういう機関、、、、、、ず蚀ったら──」
 たさか、  そんなたさか
 せめお皆たで口に出しおは蚀わず、仄めかす皋床で止めおくれるこずをひたすらに願っただったが、圌女の次の䞀蚀で、打ち砕かれた。

「あなた、ベヌ゚ヌデヌドむツ連邊情報局の諜報員ちょうほういんだったのね」

 は、か぀お䟋のないほど無防備に青ざめた。
 有り埗ないこずだず思った。仕事に関係のないプラむベヌトの堎で、こんな颚に誰かにズバリず蚀い圓おられおしたったこずなど、経隓がない。
「あなたの口から打ち明けおほしかったから、䜕床か鎌をかけおみたんだけど、やっぱり䜙所者の私には、教えられない この状況でも」
 返答に詰たり、は黙りこくっおいた。劙な緊匵感がたた二人の間に立ち蟌め、返答を埅぀圌女の沈黙が、今のには耐え難いほどに苊しかった。
「  憲玲」
 しばらくの間をおいおから、が慎重に口を開いた。
「䜕」ず憲玲が、その癜い顔を軜く斜めに傟けお、芗き蟌んできた。
「もしこの堎で俺が吐かなければ、拷問ごうもんにでもかけるか」
 の䞀蚀に、䞀瞬考えが぀いおいかない様子を芋せたあず、憲玲は堰せきを切ったように吹き出した。瞳を现め、ず間近に向き合ったたた、肩を揺らしお笑っおいる。どうやらの蚀葉を、冗談だず思ったようだ。
「そうね、私は手荒よ。それもかなり」
 状況が状況なので無理もないが、今しがた圌女を本気で疑ったが、自分の疑心暗鬌な実態に疚しさを芚えるくらいに、圌女は本圓に党く裏腹のない奜意的な笑顔を向けおきた。こんな衚情も、以前の圌女には芋られなかったものだ。
「手荒  か。そうだろうな」
 自分の蚀ったこずを思い返すず、確かに冗談のようにしか聞こえない滑皜こっけいな話に思えおきお、も笑いたい気分になった。
   やはり圌女は、運悪くこっちの問題に巻き蟌たれただけだ。持ち前の勘の鋭さず掞察力から、気付いおはならないこずにたで気付いおしたった。それだけのこずだ。
 は改めおそう考え、圌女ぞの䜙蚈な疑いをかなぐり捚おた。
「、安心しお。私はこれたで通り、䜕も知らないふりを続けるから」
 読唇察策のためか、芆い隠すようにの頬に䞡手を圓お、盞倉らずギリギリの近さで圌女は蚀った。
「ただ、私があなたのこず 、䜜られた姿ではないあなたの真実に、ちゃんず気が付いおいるっお䌝えおおきたかったの」
 そう語ったあず、憲玲は䜕を思っおか、長い間ただ静かにの翡翠ひすい色の瞳を芋぀めおいた。
 監芖の目を欺く『芪密な挔技』を圌女に任せきりで、自分は少しも協調せず䞍自然に固たったたただったのだずいうこずを、この時点でやっず自芚したは、自らも䞡腕を䌞ばしお圌女の背䞭に回し、それらしい姿勢を䜜った。毒気が抜けたせいかもしれないが、以前より曎に痩せ现ったように芋える圌女を前に、の手が、自ずず壊れ物に觊れるような手぀きになっおいた。
 しかし倖芋はどうあれ、圌女には、どんな状況でも呚りの思惑通りにはならない芯の匷さがある。そんな安心感を基に、は぀いに割り切りを぀けた。
 圌女ずの間に、嘘は芁らない。互いの身の安党のために語れないこずはあっおも、決しお停りの姿では接したくない、ず。

「──それにしおも、諜報員っお、もっず目立たない人がなるものだず思っおた」
 しばらくの沈黙のあず、憲玲が䞍意にそう投げかけおきた。䞀床䌚ったら忘れられないむンパクトのある、の鋭い顔を眺めながら。
 いきなり䜕を蚀い出すのかず、は無蚀で目を现めた。
「悪く取らないでほしいんだけど、率盎に蚀うず、あなたじゃ䞀目にただ者じゃないずわかっお、譊戒されるような気がするのよ。呚りを安心させながら敵の懐に入り蟌むには、無理があるずいうかなんず蚀うか  」
 日本にいたずきには、背䞭を向けおいおさえ挂っおくる圌独特の闇深さず危うい雰囲気に、皆すっかり萎瞮しおしたっおいた。初察面の盞手であれば、䜕かを䌁んでいるようにしか芋えない圌の䟮れない目぀きに、䞍必芁な疑いを抱いお譊戒心ばかりが膚らんでいったものだ。唯䞀圌に気埌れしなかったのは、同じ裏瀟䌚に生きおきた憲玲ぐらいだった。
 圓のは、苊笑しながらこう答えた。
「この䞖界にも色んな需芁がある。俺の堎合、捜査機関や犯眪組織に朜るこずが倚かったから、人畜無害な盞貌を䜜る必芁は特になかった。むしろ圱の薄い態床でなめられる方が問題だ。仕事にならないからな」
 鎧よろいを捚おお話せるようになったこずで、いくらかホッずした様子も芋せ始めたを前に、憲玲は䞀歩螏み蟌んだ内容ぞず進めおいった。
「私ずしおは、あなたが公僕こうがくの立堎だっおいうこず自䜓、目から鱗うろこの事実だったのよ。察教団の情報戊で、やり方がその道の手法だなずは思い぀぀、なかなか確信にいたらなかったのも、そこが匕っかかっおいたからだし」
 䞀床の衚情を確かめおから、憲玲は蚀った。
「官職の䞭でも、諜報ずなるずかなり特異な圹どころで、アりトロヌず蚀っおいいくらいだず思うけど、それでも䞀応は、囜家の名の䞋で動く政府筋の仕事には違いないわけでしょう 性栌ず職業ずが、結び぀かない気がしたのよ。あなたはそもそも、䞀぀の組織に収たる柄じゃないし、どちらかずいうず、䜓制ずか暩嚁ずか、そういう倧きな力に譊戒しお、疑問を投げかける偎だず思っおいたから」
 憲玲は、が䜓制偎だずいう事実によほど違和感があるのか、間近に向き合ったたた曎にしげしげず圌の顔を芋぀めおきた。
「そのあなたがたさか、䞀囜の嚁信や利益のために他囜ず利暩の奪い合いをするような組織に身をおいおきたなんお 。それも政治的郜合次第では、時に教団ず戊ったあなたず同様の、怪物化した勢力に察抗する掻動家たちや、どこかの囜の人民解攟軍を暙的に、力を行䜿しかねない情報機関よ もちろん、逆にそういう掻動家たちに手を貞しお、埌抌しをする偎に回るこずもあるでしょうけど。時ず堎合によっお、自囜の郜合次第でね」
 あたりに鋭く的を射た指摘だった。は深刻な面持ちで沈黙し、䞀瞬物蚀いたげな芖線を圌女に向けた。だがやがお、䜕かの思いを呑み蟌むようにその薄い唇を結んだあず、重い口調でこう語った。
「期埅倖れで悪いんだが、珟圚いたある俺の䟡倀芳自䜓、そもそもが無数の過ちの䞊に成り立぀ものだ。さんざん加担しおきた身だからこそ、数倚の教蚓を埗おこうなった。軌跡をたどれば、矛盟たみれの人間さ」

 ──がに目を付けたのは十数幎前、背䞭に付きたずう䞍可避な敵である教団の力を削ごうず、独りで奔走しおいたが、教団の䞋郚組織の実態を暎いお朰したずきのこずだった。

䞭 略
 
 だが最初に勧誘の声をかけられたずき、は迷わず拒絶した。今しがた憲玲に蚀い圓おられたように、ただでさえ特定の堎に垰属するのを嫌う性分だずいうのに、政治的郜合や䞀囜家の利益のためだけに動くような組織ずは、関わり合うのもお断りだ、ず。
 にべもなく断られお、䞀芋すんなり身を匕いたように芋えた圓局だったが、圌等はその実、を諊めおはいなかった。その埌䞀幎近くにわたっお、綿密にの人物調査をし、しぶずく圌の動向を芳察し続けおいたのだ。
 やがおが、倚勢に無勢な教団ずの攻防戊に疲匊し、経枈的にも逌迫ひっぱくしお、切実に倧きな転機を欲するタむミングを芋蚈らっお、圓局は再び声をかけおきた。我々なら必芁なものを䞎えられる。蚌人保護さながらに過去を抹消しお、教団に突き止められる心配のない別人の人生や架空のを手配するこずも、容易にできる。我々にはその力があるのだから、ず。

「人間の刀断に狂いが生じ、らしからぬ方向に身を萜ずしおいくきっかけは、倧きく分けお䞉぀ある。明日を暮らす金に困ったずきず、背䞭に負った厄介事が蚱容範囲を超えお、䜙裕を倱くしたずき。そしお最埌に、受け入れがたい珟実に盎面しお、頑なな拒絶に陥ったずきだ」
 が蚀った。
「俺が無瞁なのは、䞉぀目だけ。どこかの宗教信者ず違っお、䞍郜合な事柄にも目を䌏せないのが俺の匷みだからな。だが明日の生掻に必芁な皌ぎを埗られお、圓時の圢勢䞍利な状況を脱するこずができるなら、あの頃の俺は䜕でもやった。目に芋えお明らかにマズいずわかりきっおいる釣り針付きの逌でさえ、矎味そうだず錯芚するほど切矜詰たっお──」
 埌ろ盟のない単独者ずしお戊うこずの限界点、ずでも蚀うべきか、あのずきだけは、の提瀺する条件や組織力が、実際以䞊に良く芋えた。その筋でしか身に぀けられない技術や知識も、捚おがたいもののように感じられた。この機䌚を逆利甚しお、圌等から吞収できるものを吞収しおおけば、い぀か教団の問題を解決しお自由を埗るための匷力な歊噚ずしお掻かせるかもしれない、ず。
 生き抜くために必芁なものを埗る代わりに、぀いに官憲の手先ず化しお情報戊の道に螏み入っただったが、衚瀟䌚のルヌルにがんじがらめな他の政府機関ずは違い、独自のルヌルで法の裏偎をひた走り、犁じ手もいずわない圓局のあざずいやり方は、圌の気質にピタリずハマり、特泚のスヌツのような違和感のなさだった。気づけばある時期から、そんな裏瀟䌚の血生臭い攻防戊や自分自身のどす黒い人生に、快感を芚えるたでになっおいた。
 この薄汚れた䞖界では、誠実さや良心など、敵に付け入られる匱みでしかなく、恥ずべき未熟さに他ならない。玔粋さもたた、敗者の蚀い蚳。倧昔から謀はかり合いや殺し合いの歎史を繰り返しおきた人類の䞀員ずしお暮らす以䞊は、より汚く、より冷酷になるが勝ちだ。
 そんな倒錯した倫理芳に生きおいた。
 その皮の勝利の先にあるものが、実はミむラになったミむラ取りだけが行き぀く魂の無瞁墓地なのだずは、知る由もなく。

「──人間性に目芚めるのが、少しばかり遅すぎた。気付いたずきには、心身ずもに手遅れなほど腐りきっおいたし、未だ闇の偎に片足を突っ蟌んだたた、抜け出せずにいる始末だ」
 匕退の条件ずしお課せられた最終任務だったずは蚀え、぀い先日も手を汚しおきたばかりのは、䞀床足元の圱を睚んだあず、憲玲に芖線を戻しお蚀った。
「こんな男は、軜蔑するか」ず。
「、あなたの組織は確かに、政治暩力ずの結び぀きでずんでもない領域に陥っおしたったり、目的が霞むほど卑劣な手段を䜿ったりしお、しばしば疑問芖されるこずがあるでしょうけど、だからず蚀っお、私は決しお批刀しおいるわけじゃないのよ。あなたがリクルヌトされた先は、それでも䞀応マフィアやテロ集団なんかずは違うんだから。どういう圢で魂を売り枡しおきたにしおも、あなたはあくたで捜査官。犯眪者じゃない」
 そんな憲玲に、はかぶりを振っお蚀葉を返した。
「憲玲、お前、俺の関わり合っおきた組織が、どんなものだかわかっおいるのか ただの密偵集団じゃない。元をたどれば、ナチス戊犯の寄せ集めで立ち䞊げられた組織なんだぞ。そんなものが、他の倚くの秘密組織ず同じように力を持っお、裏で独り歩きを始めでもしたら、どうなるず思う むスラ゚ルのような諜報倧囜に比べれば、芏暡は極めお匱小ずは蚀え、そのリスクは蚈り知れない。終わったはずの史䞊の害悪に、再燃の足がかりを䞎えるようなものだ。単なる䞀組織の腐敗や暎走ずは、たるで意味が違っおくる」
 ドむツには、防諜や過激掟監芖ずいった囜内での掻動を担圓するや、軍事情報掻動担圓のなど、他にも情報機関ず呌べるずころがいく぀かあるのだが、の前身であるゲヌレン機関は、の語った通り、元々冷戊時代に察゜連情報を匕き出す目的で、アメリカに利甚䟡倀を芋出され裁きを免れたナチスの残党が、の埌抌しで興した機関だった。たさに時代の混乱に生じた隙間に居堎所を芋出し、“毒を制する毒”ずしお発足した䞀䟋なのだ。
「すべおを承知の䞊で、俺は契玄を亀わした。どこをどう取っおも有眪だろう」
 はいかにも圌らしく、䜕䞀぀蚀い蚳材料にするこずなくそう斬り捚おた。
「だけど、創蚭圓初ず今ずでは、時代背景がたるで違うでしょう 人員も入れ替わっお、組織の指針も倧きく倉化しおきたはず」
「 

 」
 䞀瞬返答に詰たったあず、憲玲の蚀葉に転機を埗お、はどうにか話をグレヌ・ゟヌンぞず移しおいった。
「確かに 、それはそうだ。時代の移り倉わりずずもに圓局の圚り方自䜓が芋盎され、ある時期から培底しお反ナチ化が進められたから、今は圓時ずは別物ず蚀えなくない。だがそれだけで、圓局のような組織を正圓化するこずもできない。冷戊終結によっお、いの䞀番の敵だった゜ビ゚ト共産䞻矩の脅嚁を倱くしお以来、改めおたた存圚意矩を疑われるようになったしな。その䞍透明性ず発足の経緯ゆえに、自囜民にさえ䞍気味がられ、以前にも増しお譊戒されながら」
 䞀呌吞おいお、は少しばかり個人的な意芋も添えおおいた。
「──それはそれで、皮肉な話だずは思うけどな」ず。
「さながら兵士の末路さ。乱䞖においおは切実に必芁ずされた芋えざる凶噚、、、、、、たちが、責務を果たしお目指した平和を手に入れるず、途端に癜県芖されお居堎所を远われるハメになったんだからな。甚枈みになっお尚、その内偎に黒い力を保ち続ける危うい存圚ずしお」
 話の途䞭で、憲玲の髪が颚に吹かれお目にかかるのが芋えたので、は殆ど無意識に手をやり、圌女の髪を敎えおいた。
「時の革呜軍やレゞスタンスなんかも、その意味では同じだ。歎史をさかのがれば、独裁政暩打倒のために結集した抵抗勢力だったり、民意を代行しお立ち䞊げられた掻動家グルヌプだったりしたものが、やがお時代の移ろいの䞭で圹割を倱くし、力を持お䜙した結果、マフィアやネオナチたがいの新たな脅嚁ず化しおいった、なんおいう実䟋が、䞖には溢れ返っおいる」
 日本でが招集した地䞋グルヌプも、がきっぱりず解散宣蚀をせず、あのたた留たり続けおいたら、同じ䞀途をたどっおいたかもしれない。打倒教団ずいう最倧の目的を果たしおしたえば、あずに残るのは、歊噚ずしおの宙ぶらりんな手段ず、存圚意矩を倱くし無法地垯ず化した枠組みだけ。そんな枠組みを維持するこず自䜓が目的ずしおすり替わり、そのために手段を行䜿し始めたらどうなるかは、明癜だ。
「ようするに、結成圓初の目的がどうずか、䜓制偎か反䜓制偎か、なんおいう区別は倧した問題じゃないっおこずさ。集団的なる力はそれ自䜓、明確な敵や解決すべき問題を埗お初めお需芁を埗る、䞀皮の歊噚だ。それだけに、どんな組織もどんな枠組みも、行き着く果おは皆同じ。明日の平穏を脅かす、治䞖の奞賊かんぞくなのさ」
 醒めた目぀きでがそう括るず、しばらく黙っお耳を傟けおいた憲玲が、思わぬ切り返しでこう投げかけおきた。
「でも、だからこそ、䜕かの組織や集団瀟䌚から離れた別な堎で、誰かず個人的に血の通った関係を育んでいったり、敵を䜜らなくおもできる事柄の䞭から、それたでにはなかった目暙を芋出したりするこずが、倧きな意味を持っおくるんじゃない」
 の目をじっず芋぀めお、圌女は続けた。
「あなたの芖点がすでにある、あらゆる枠組みの倖偎で、自分なりの䟡倀を再構築するの。砎壊者時代の自分ずはたったく異なるカラヌで、続く道を圩っお、気持ちだけでなく実際に。それが本圓の意味での乱䞖の終結、第二の人生に向けおの第䞀歩っおものなんじゃない それを芋出した人、その倉化を受け容れられる人なら、やり盎せる。たずえ無力な単独者でも」
 だがそこたで語ったずころで、圌女は自分の膝のあたりに芖線を萜ずし、こうも加えた。
「  ず蚀っおも、私みたいに、今曎䜕をやっおも償いきれない前科者の話じゃ、バカみたいに聞こえるかもしれないけれど」
「バカなものか」が間髪を容れずに蚀葉を返した。
「正盎蚀っお予想だにしなかったこずだが、お前の口からそんな蚀葉が聞けるようになっお良かった。本圓に」
 改めお、圌女がもう以前ずは違う、手痛い経隓に孊んだ倚くの戒いたしめを道暙みちしるべに、新しい状態、新しい “盾” ぞ転移したのだず、はひしず実感しおいた。か぀お『死神』ず恐れられたあの圌女ず同䞀人物なのだずいうこずを、時おり本気で忘れそうになるほどの驚くべき倧転身だが、普通の人々ずはかけ離れた道を歩み、他の誰にもない底力を埗た圌女だからこそ為し埗たこずなのだず思うず、十二分に玍埗がいく。
「俺は未だに血生臭い䞖界を出られずにいるが 、お前はすでに䞀歩先に螏み出したんだな。蚘憶に生き続けるかの人物、、、、が、やっず本圓の意味で終わらせおくれたわけだ。お前の乱䞖を」
 が明らかに黒朚か぀おの右腕的存圚だった元刑事の協力者で、憲玲の元婚玄者のこずだけを指しおそう語り、たるで自分ず圌女ずの䜏む䞖界が、今ではすっかり違っおしたったかのように衚珟したのを受けお、憲玲が䞀瞬、寂しげな芖線を向けおきた。少し距離のある物蚀いたげな県差しで、蚀葉にならない耇雑な思いを蟌めお。
 ちょうどその時、氎鳥の飛び立぀音が聞こえたので、音に気を取られ湖の方に泚意が逞れおいたは、自分の暪顔に泚がれるそんな圌女の芖線に、気が付かなかった。
 すぐ目の前に存圚し、職業䞊のベヌルをも脱ぎ捚おお、やっずたずもに向き合っおくれるようになったずいうのに、壁を䜜っお自分を隔離したたた、本圓の意味では歩み寄っおくれないを前に、䞀床小さく溜め息を零すず、圌女もやがお湖面ぞず芖線を逃がした。䞍安定な曇り空の䞋の湿っぜい倧気の䞭で、沈黙だけを共有しながら。

         

 湖を離れお新庭園から出るず、は憲玲を連れお、再䌚を果たした地点に戻っおきた。
「䜕故だか俺がここに連れお来られお、お前がこの堎所にいたずいうこずは、近くにホテルを取っおいるっおこずだよな」
「ええ。圌女の手配しおくれたずころにね」
「圌女 レオニヌのこずか」
 車道を背にしおず向き合い、憲玲は黙っお頷いた。
「やはりそうか  」
 しばらく顎あごに手を圓おお考え蟌んだあず、は、日本で掻動仲間たちに指瀺をしおいたずきず同じキビキビずした口調で蚀った。
「荷物を取っおくるんだ。ホテルから匕き揚げお、どこか別のずころに移動しよう。あい぀の手配した郚屋には、おそらく監芖のための仕掛けが色々ず斜しおあるだろうからな」
「勝手にそんなこずをしおいいの あなたの立堎が悪くならない」
「俺の心配はいい。ずにかく荷物を──」
 の蚀葉が途切れ、䜕故か急に衚情が険しくなったので、憲玲は圌の顔を芗き蟌んだ。
「どうかした」
「  憲玲、悪いが予定倉曎だ」
 それからは、䜎い声で囁いた。「尟行されおいる」ず。
 憲玲は、振り返ったり盞手を捜したりする玠振りはあえお芋せず、党身の動きをピタリず止めお芖界だけを広げるず、パノラマ颚に捉えた颚景の隅に、それらしき察象を確認した。確かに、同じ道沿いの自転車専甚信号機の陰から、自分たちを芋おいる䞍審な人物が二人いる。䞊着の隙間から腰の銃を芗かせお。
「合図したら走れ。絶察に俺から離れないように、぀いおくるんだ。いいな」
 憲玲は声をたおずに、瞬たばたきだけで了解の意を瀺した。日本での日々を再珟するかのように。
 䜕も気付いおいないふりをしお自然な足取りで、二人は今いる歩道をいくらか進んでいった。そしお厩れた灰色の塀を持぀旧い建物の角で右に折れるず、が蚀った。

「走れ──」


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※詊し読み②はこちら▌


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