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🇺🇸米国暗号資産規制ニュース(2024年5月14日):SECの職員会計公報第121号をめぐる議会と政権の対立

背景

2022年3月、米国証券取引委員会(SEC)は、職員会計公報第121号(Staff Accounting Bulletin、SAB 121)を公表しました。この通達は、企業が顧客から預かった暗号資産を自社の貸借対照表上で負債計上し、対応する資産も時価評価で計上することを求めています。また、暗号資産保有に関するリスクの開示も義務付けています。

SAB 121の内容については、下記の記事が詳しいです。

暗号資産業界や規制当局など広範囲からの批判

SAB 121の公表後、暗号資産業界や規制当局を含む広範囲から強い批判が寄せられています。

銀行業界からの批判:2024年2月14日、銀行業界団体がSECに対して、SAB 121の修正を求める共同書簡を送付しました。団体は、SAB 121が銀行の分散型台帳技術の利用を阻害していると批判しています。また、今年初めに承認されたBitcoin ETFに関して、銀行がSAB 121の影響でカストディアンになれないことも問題視しています。

連邦銀行監督機関からの批判:銀行の監督機関の高官からも厳しい批判がありました。2024年3月11日、連邦預金保険公社(FDIC)のTravis Hill副会長は、SAB 121が現行のカストディの実務と乖離しており、銀行による暗号資産の保管を妨げていると指摘しました。同氏は、SECが一般からのコメントを求めずにSAB 121を発行したことを問題視し、より明確な指針を求めています。

SEC内部からの批判:SEC内部でも、暗号資産の支持者として知られるHester Peirce委員が、SECの暗号規制アプローチを批判しています。Peirce委員は、このような広範囲に影響を及ぼす規則は職員ではなく全委員会で設定されるべきだと指摘しています。

議会におけるSAB 121廃止に向けた動き

SAB 121に対する批判の高まりを受け、議会ではSAB 121の廃止に向けた動きが活発化しています。

手続き上の不備の指摘:2023年10月31日、米国議会の監視機関は、SECがSAB 121の公表する際、適切な行政手続きに従っていなかったと結論付けました。これにより、議会は手続きに従ってSAB 121を覆す権限を持つことになりました。

上下院共同での決議提出:2024年2月1日、共和党上院議員1名と共和党と民主党の下院議員2名が、共同でSAB 121を廃止するための手続きに着手しました(共同決議)。彼らは、SECがこの通達を公表する前に、規制当局や一般からのフィードバックを受けるべきだったと指摘し、Gary GenslerとSECが権限を越えていると批判しています。

下院での可決:2024年5月8日、下院はSAB 121を取り消す下院共同決議109号(H.J.R.109)を承認しました。現在、この決議は上院に提出され、上院の共和党議員らが中心に決議可決に向けて動いているようです。

民主党からの反対意見:一方、民主党の下院におけるキーパーソンであるMaxine Waters議員は、この決議に反対しました。Waters議員は、「この法案は、メスを必要とするかもしれない問題を修正するために大ハンマーを使い、特殊利益団体の意向に従うだけでなく、あらゆる可能な方法でSECを攻撃し、弱体化させることに関心がある」と批判しました。

大統領による拒否権行使の表明

2024年5月8日、下院がSAB 121に反対する決議を可決した同日、バイデン大統領は、この決議に拒否権を行使すると表明しました。大統領は、SAB 121が消費者保護と金融安定性を図る重要な措置であると考えており、決議によりSECの規制権限が不当に制限されることを危惧しています。

最後に

今後、上院でSAB 121廃止の決議案が可決される可能性は高いと見られています。バイデン大統領は拒否権を行使すると表明しましたが、今後も議会、政権、規制当局、暗号資産業界関係者による議論が続くものと思われます。今後の展開について、引き続き注視していきます。

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