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【百人一首】(みよしのの/九四・参議雅経)

みよしのの山の秋風さよふけて故郷(ふるさと)さむくころもうつなり
(九四・参議雅経)

【解釈】

吉野の山に、秋風が吹く。夜が更けていく。かつて都があったとは信じられないほど静かで寒々としている。冬に向けて衣を仕立てているのか、辺りには砧を打つ音だけが響いている。

大人になって良さが分かるようになってきた歌のひとつです。

出典は「新古今集」秋下 四八三。
作者の参議雅経は、飛鳥井雅経というのだそうです。新古今集の撰者のひとりとしても知られ、源頼朝の猶子となった公卿、歌人です。

秋の夜に砧を打つ音が聞こえるというのは李白の詩にも出てくるモチーフで「擣衣(とうい)」として歌のお題に使われていたようです。
詞書によれば、この歌もそのひとつ。擣衣というお題で詠まれたと書かれています。

技巧的に難解な部分はほぼなく、そのまま意味が取れます。

秋の夜のものさびしさに、かつての離宮があった吉野という舞台設定が効いていますね。大げさでないのに美しく、ちょっと切ない。

時折響いてくる砧を打つ音。
音があることでかえって静けさが際立つのがすごいです。

しっとりしつつ暗すぎない、そんな李白っぽい冷たい肌触りがちゃんとあって、どこか中国風味なのもいい。

春、山を埋めつくす桜のイメージが強い吉野ですが、秋にも行ってみたいなと思います。

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