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【百人一首】あけぬれば(五二・藤原道信朝臣)

明(あけ)ぬればくるゝものとはしりながらなをうらめしきあさぼらけかな
(五二・藤原道信朝臣)

【解釈】

夜が明ければいずれまた日が暮れて夜になり、また会えると知っているけれど、それでも君と別れなければならない朝が来るのが本当にうらめしいのだ。

恋の歌が続きます。出典は後拾遺集 恋二 六七二。

作者は藤原道信朝臣(ふじわらのみちのぶあそん)。中古三十六歌仙の一人です。歌詠みに長けた人で、五一番の歌を詠んだ藤原実方や藤原公任とも交流があったと言われています。

わずか23歳の若さで早逝しているので、はかない貴公子のイメージとあいまって愛されてきたのがこの歌です。
天然痘が流行った年に亡くなっているといいますから、流行り病による死だったのかもしれません。パンデミックはいつの世でもおそろしい。

いわゆる後朝の歌です。
後拾遺集には「女のもとより雪降り侍(はべり)ける日かへりてつかはしける」という詞書がつけられています。お泊まりした翌朝、雪の中で帰ってきてから彼女に贈った歌ということですね。

これ見よがしな技巧はなく、現代語訳や用語の解説がなくても意味は取りやすい。
そのままストレートに思いのたけを綴ったのかな、という感があって、その若さや力強さが魅力でもあります。

「朝ぼらけ」は夜明け、ほのぼのと明るくなった頃を表します。
夜を共に過ごした恋人と離れなければならない時間帯として、切ない響きを持つものです。

雪の朝だなんて、さらにもののあはれ的な風情がダダ漏れだったのでしょう。

冷たい空気の朝、共寝をした余韻が残る中で恋人と別れて仕事に向かう。幸せでさびしくて、あざやかで美しい歌だと思います。

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