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溶けてゆく氷と、思い出と

熊本の祖父母の家は、とても怖い。

二階建ての木造の一軒家も、みしみしと音がする廊下も、お仏壇の前に敷かれた客用の布団も、うまく鍵が閉まらない手洗いの扉も。熊本で過ごす夏の夜は、いつもうまく寝付くことができない。

居間には、元気だった頃に撮影したのであろう、死んだ祖父の写真が飾られている。それを見つめ、私は「おじいちゃん、イケメンだな」と思う。

祖母は、まるで今でも生きているかのような言葉づかいで、祖父との思い出を追懐する。その話が、また、とんでもなく、長い。麦茶の氷は溶けてゆき、私はどんどん、眠くなる。

二階への急な階段を上ると、父と叔父の部屋がある。これだけが楽しみなのよ、と、私は、父や叔父の本棚や机の中を漁る。大学生くらいだろうか。ロン毛の父の写真を発見し、にやにやと笑う。叔父の恋文は、私が恥ずかしくなってしまった。

怖かったり、眠かったり、覗き見をしたり。熊本での夏は、忙しいのだ。

「誰しもが生きやすい社会」をテーマに、論文を書きたいと思っています。いただいたサポートは、論文を書くための書籍購入費及び学費に使います:)必ず社会に還元します。