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【短編】 ラストシーン

ホテルの一室

別れ話をする女と男

「やっぱりうまくいかなかったわね」

「あぁ」

「何だか最初からこうなることが決まってたみたいだわ」

「そうだな」

「やっぱりお互い無理があったのよ」

「そうかもな」

「ずっと感じていた違和感の意味がやっと解った気がするわ。貴方もずっと感じてたんでしょ?」

「あぁ……そうだな」

「やっぱりね」

「…………」

「お互い無理してたってことね」

溜め息をつくと女は煙草を吹かした。

男が軽く咳払いをする。

女が小さく笑った。

「それ」

「ん?」

「やっと意味が解ったわ。本当は私に煙草を吸って欲しくなかったのよね?」

「あぁ。そうだよ」

「やっと本音が聞けた」

女は何故か嬉しそうだ。

「お互いもっと本音で語り合えてたら」

「…………」

「こんな事にはならなかったのかな」

「そうだな」

「気を使う場所が違いすぎてたのかもね。お互い空回りしてるだけで相手のためになんてなってなかった」

「空回りか……そうかもな」

「良かれと思った行動がすべて良い結果に結びつくとは限らないわ」

「そうだな」

「私はちゃんと言って欲しかった。嫌なら嫌だって」

「いつか気づいてくれるんじゃないか期待してたのかもしれない」

「私の鈍感さは貴方が一番知ってるはずよ」

「確かにそうだな」

「鈍感でガサツな女に口下手で生真面目な男。合うわけがなかったのよね」

「そうだな」

女がまた小さく笑った。

「貴方が口下手なのは付き合う前から知ってたわ。でもやっぱり寂しかった」

「寂しい?」

「だっていつも話すのは私ばっかりで……。貴方は相槌を打つばかり」

「……あぁ」

「貴方の話もちゃんと聞きたかった」

「君の話を聞いてる方が楽しかったから」

「嘘」

「嘘じゃないよ」

「でも最近は無理して聞いてたはずよ。そういうの空気から伝わるんだから」

「まぁ……最近はそうだね」

「お互いに賞味期限切れの不味い恋を続けてただけね」

「賞味期限か……消費期限じゃないんだな」

「腐る前に終わらせられて良かったわ」

「だったらまだ」

「え?」

「いや……何でもない」

「……そう」

女は煙草を揉み消して立ち上がる。

「雨……止みそうにないわね」

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