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コンテンツは、なくても死なない。

12月8日に、会社が設立5周年を迎えた。

ピースオブケイクの社是は、「世界をもっとおもしろくする」というものだ。これには実は、裏の意味があって、ネットの状況がこのままだと、おもしろいものがどんどん減ってしまうのではないか、という懸念がある。

インターネットメディアの最大の課題は収益性だ。

これまで、日本のコンテンツ業界が盛り上がってきたのは、およそ100年前にはじまった「出版」というビジネスモデルや、50年前にはじまった「テレビ」というビジネスモデルが、あまりにもよくできていたからだ。とにかくもうかるから、才能が集まり、市場が拡大するという好循環がうまれた。

いま、人々がコンテンツに出会う場所は、ネットにシフトしている。でも、そこにはまだ、しっかりしたビジネスモデルがない。話題のキュレーションメディアにまつわる事件も、根本的な要因はそこだろう。ウェブメディアのビジネスモデルが、ページビューを増やして広告を張るしかないのが問題なのだ。

この件に関しては、特定の企業や個人についての批判が盛り上がっている。もちろん、ある程度は必要なことだとは思うのだが、個人的には、あまり興味が持てない。それよりも、インターネット上に、コンテンツとテクノロジーの力で、あたらしい市場をつくることのほうに関心がある。

市場ができれば、クリエイターがあつまって、おもしろいコンテンツが増えていく。ピースオブケイクは、それを実現するための会社だ。cakesnoteはそのためにあるし、それ以外にもやっていることがある。

……と、ここまでを読むと、なんだか立派な話に見えるが、これは、ぼく個人としても切実な話なのだ。

前々回の記事を読んだ人は想像がつくかもしれないが、ぼくは、すこしだけ変な人間のようだ(ようだ、というのは、自分ではあまり自覚はないからだ)。学校や会社で、浮いていたのは事実だし、普通にしているつもりでも、悪いほうに目立ってしまう。そして、弊社の編集者を見ていると、そういう人間が多い気がする。

付き合いのあるクリエイターの顔を思い浮かべると、もっとはっきりしている。ものづくりをする人は、はっきりいって全員、「変わった人」と言ってもいいだろう。だって、普通に平均的な感じでしあわせだったら、文章なんて書く必要なんてないし、絵や写真、音楽をつくる必要もない。表現をするということは、そこまでして、他人にわかってほしいなにかがあるということだ。

コンテンツというのは、そういう人たちのエネルギーを形にしたものだ。クリエイターは、思いをコンテンツにして社会に投げかける。その投げかけに普遍性があると、より広く届けることができる。そして、そこに市場があれば、クリエイターはものづくりをずっと続けることができる。

つまり、クリエイティブができる環境は、彼らにとって、必要なものなのだ。そしてまた、それを需要する消費者の側にとっても同様だ。

コンテンツは、本来、なくてもいいものだ。本なんて読まずに、友達とLINEをしているほうが幸せだという人のほうが多いだろう。でも、どういうわけか、それじゃ足りない人たちがいる。コンテンツというのは、そういう人々のための居場所でもあるのだ。

今週、ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞のスピーチを読んだ(日経新聞の翻訳が読みやすい)。

この文章を読んだ感想は、「シェイクスピアもボブ・ディランも、(ぼくたちと)同じなのか!」ということだ。もちろん、レベル感は、まっっっったく、ちがうのだけれど、やっていることや目指すことの「方向」はいっしょであることに、ちょっと本気で驚いた。

でも、よく考えると、そりゃそうだよな、と納得した。シェイクスピアは、芝居小屋のハコの大きさや、俳優の配役などをとても気にしながら書いたはずだし、ボブ・ディランも、スタジオの質や歌のキーについて、すごく気にしながらつくっているはずだ。ぼくらが本やウェブの表現について必死で考えたりするのと、やっている方向性は変わらないのだ。

ものをつくるというのは、おそらくそういうことなのだろう。目の前の考えられることをよく考えて、それをずっと続けていく。そうすると、結果的に、世界的なアートになることさえある。自分自身、そんなことをしていきたいし、未来のアーティストが、そういうことをしていく場をつくりたい。

近々発表をはじめるけど、この先、ピースオブケイクは、いろんな会社といっしょに、そういう場所づくりのための活動を拡大していく予定です。この1年くらい、ずっとその準備ばかりしていて、ステルスモードですごしていたのだけれど、そろそろと動いていく。

コンテンツは、なくても死なない。でも、あると、おれたちはうれしい。君に会えて幸せ。と、そういう話でした。


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