マガジンのカバー画像

妄想中年備忘録

4
頭の中に浮かんでは消える、あの時のあれこれ、あの人この人、あの瞬間。 誰かに伝えたいような、でもそんなに言いたくないような。
運営しているクリエイター

記事一覧

私が小学生になったとき

私が小学生になったとき

私は小学校の入学式にヘマをした。おそらく、もう誰の記憶にも残っていないだろう。入学式の後にその事を改めて尋ねて来たのは、近所のMちゃんのお母さんだけだった。

「さっちゃん、どうして入学式の時、前に出ていっちゃったの?」

いやらしく笑みを浮かべたその顔は、自分の子よりも私がバカだと思って蔑んでいるからだ。6歳の私は

(今に見てろよ)

と、Mちゃんのお母さんに呪いをかけながら、「よくわからない

もっとみる
父のこと

父のこと

私の父は喋らない。

何にも関心がなく、何も聞かず、何も買わない。
毎朝早くに家を出て、まっすぐ帰宅する。食事をし、新聞を読んでテレビを見る。

小学4年生の頃に遊びにいった友達の家。その子とお父さんがいつもやっているという両足を腕に抱えてぐるぐる周るという、随分とアクロバティックな遊び披露してくれた。続いてお父さんは私の足もヒョイと掴んで、少し控え目に、ぶんぶん振り回した。

それは私にとって初

もっとみる
よく思い出すもう戻れない風景のこと

よく思い出すもう戻れない風景のこと

ロンドン北部の閑静な住宅街、お金が無かった私は、電車のそれに比べると破格に安いバスの定期を使い、借りているスタジオまで毎朝通っていた。
駅前のバスターミナルには、その駅が始発のダブルデッカーのバスがいつも待機していて、私は迷わず2階に上がり、一等前の右側の席を陣取る。手入れが行き届いていない大きな曇った窓ガラスと座席の間には、私の腰の丈ほどの段があり、ドカッと腰をおろすと両足をその段に乗せ、CDプ

もっとみる