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医療の効率性

World Health Report 2000

 WHOがWorld Health Report 2000として、医療・保健システムの国別ランキングを出しています(https://www.who.int/whr/2000/en/whr00_en.pdf)。具体的には、
健康状態
 (障害修正済平均寿命や乳幼児死亡率)
期待への応答性
 (「個人の尊重」と「顧客としての取り扱い方」)
財政負担の公平性
 (コスト負担による保険医療サービス受診断念への回避、保険医療サービス購入による貧困への回避、一般世帯の終身収入に対する保険医療サービスへの総家計費の支出割合)
以上が指標となっています。

 日本はいずれも上位にランキングされていますが、そもそもこれらの指標が医療・保健システムを評価するのに適切なのか、という問題もありますし、それぞれ項目に重み付けがなされているのですがそれをどう決めるべきなのか、という問題もあります。応答性の評価は、専門家に対する聞き取り調査やインターネット調査が主で地域住民への意見の吸い上げにはなっていない可能性がありますし、それぞれの指標の重み付け(ウェイト)で「健康状態」が全体の50%を占めるため、「健康状態」とシステム全体のランキングに高い相関が発生していることなど、妥当性については考えなければならないことがあります。

医療の効率性

 ここで用いられている評価の概念として、「医療の効率性」があります。与えられた生産要素の投入水準のもとで、財・サービスの生産量を最大化することに成功している場合、効率的であるとされています。河口先生の『医療の効率性評価』によると、「効率性を狭義では “経済学の効率性” 、広義では “その他の条件が同じならばより優れた結果を挙げた場合” 」とし、狭義の効率性=技術的効率性technical efficiency × 資源配分効率性allocative efficiencyとなっています。それぞれ以下に説明します。

技術的効率性
…与えられた生産要素の投入水準のもとで、財・サービスの産出量の最大化できているかどうか。技術的非効率性の例として、医療機器(CTやMRIなど)の稼働率が悪い、医療機関や病床の稼働率低下などがあがります。つまり、「インプット1つ作るのに必要となるアウトプットがどれくらいなのか」ということです。
資源配分効率性
…与えられた生産水準のもとで、生産要素の費用を最小化できているか。資源配分の非効率性の例として、必要以上に豪華で割高な病床などがあがります。つまり、「アウトプット1つ作るのに必要となるインプットがどれくらいなのか」ということです。また、資源配分効率性については、インプット(投入要素)あるいはアウトプット(産出要素)の社会的な価値が必要とされています。測定の容易な取引価格や市場価格が、社会的価値と乖離していると測定困難とされています(例えば、医療サービスの社会的価値が診療報酬点数などの公的価格と乖離している場合など)。

効率性の測定

 この医療の効率性を測定する手法にはいくつかあります。

DEA:Data Envelopment Analysis
…測定されたデータから効率的な組織群を選別し、そのデータの各点を包絡することで効率的な生産フロンティアを推定、この生産フロンティアに対し個々の組織の位置を測定し、フロンティア上にあれば技術的に効率(D効率性)とされ、乖離が大きいと技術非効率とされる概念。同質であることを前提とした相対的な測定で、誤差を考えていないので、それらがあることが限界であるし、あくまで理論値であって現実的でないこともある。

※フロンティア分析…最適な生産を行なった場合を想定
 非フロンティア分析…平均的な生産を行なった場合を想定

SFA:Stochastic Frontier Analysis
…Stochastic Frontier=確率変動するフロンティア。測定対象が生産能力に潜在的なショックを受ける(例:効率性がいい病院において関連の納入業者の倒産のために効率性が悪くなる)ことを考慮した概念。変数やサンプルの変動にあまりsensitiveでなく、頑健で生産関数の推定で病院機能や患者特性も考慮される。

BSC:Balanced Score Card
…経営目標を段階的に整理し、多数の「目標」に間にある因果関係を整理して明示する。もともと経営戦略の手法として使われていたが、この目標を数値化することで、効率性の測定に用いられることがある。欠点として、評価指標を何にするかが難しく、特に精神的・感情的な評価は困難とされる。

 最初にご紹介した、WHOのWorld Health Report 2000は、BSCの手法を用いたものになっています。このように、様々な評価がどのような視点で測定されているかを知ることで、理解が深まるし吟味もしやすくなると思います。

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