ずっと暗くて寒くて、優しい世界

まずは、素敵なお手紙ありがとうございます。あなたの手紙を読み、あなたを想い、あなたに向けて文章を綴れることを嬉しく思います。

僕たちの二人の世界には、白い軽自動車のなかの空間や日本の田園風景の中にある一軒の家屋、いま僕の住んでいる実家の部屋が流れ着いてきています。その世界で僕らは色々な話をしました。お互いの家族の話、考え方、哲学の話、好きな言葉の話、などなど。

まだまだこの世界は狭く、もろくて崩れそうなところもあります。ですが、僕はこの世界がこれからもっともっと広くて、確かなものになると信じているのです。時間をかけて創り上げた二人の世界は、強固で、きっと誰にも侵されない。そして、眺めているだけで心があたたまる、素晴らしい景色になると思います。

僕が今まで見ていた景色は、色のない灰色の世界なのでしたが、色彩感覚の豊かなあなたはきっと、もっと世界がカラフルに見えているのでしょう?この二人の世界にも、その影響は強く表れているようです。あなたの見ている色を、もっと知りたい。

こうして手紙をしたためるため、あなたのことを考えていると、涙が溢れて止まらないのです。あなたが僕を想っていてくれることが嬉しくて、あなたのことが愛おしくて。そして、あなたの暗くて美しくて、それでいてあたたかい世界観が、とても素敵で。

くるみを食べると、メラトニンという物質が生成されることを、以前に話したのですが、実は涙を流すことでも生成されるんですよ。メラトニンには安眠効果が、もっと詳しく言うと「体温を下げて心を落ち着かせて眠りに誘う」という効果があります。これはまるで、あなたを殺すときの情景のようではないでしょうか。暗くて、寒くて、沈んでいくように眠い。二人が一緒に、涙を流して、そんな感情で死ねたら、どんなに素敵なことでしょうか。心底、そう思います。きっと、本当の優しさは、寒くて暗いものなのです。

あなたを殺すには、僕はこの世界に長く居すぎたのかもしれません。この世界には不純物が多すぎて、ときどきあなたを見失ってしまうときがあるのです。それでも、僕はあなたを見つけて、心から愛したいです。そして、美しく殺したいと思います。

あなたは、いつからそこにいたのでしょうか。どうして、僕の目の前にあらわれたのでしょう。きっとあなたは死神です。持ってきた鎌を僕に手渡して、臆面もなくこう言うのです。私をきれいに殺してほしい、と。僕があなたを前々から殺したがっているのって、そういう死の香りを感じ取ったからかもしれません。僕には、死へ憧憬があるのかも。その死の香りをまとったあなたの色気に魅了されている。そんな気がしています。

さて、今度、夢の話をしたいと思っています。実は、僕は昔、あなたと夢で逢ったことがあるんですよ。覚えていますか?

もしよかったら、あなたの見る夢についても聞かせてほしいです。

お願いしますね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?