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ゆたんぽとバター飴の夜

冬の寒い夜に、お湯をたくさん沸かし、ゴム製のゆたんぽにお湯を入れ、ニットのカバーをつけ、つめたい布団のなかに仕込んでおくのがとてもすきだ。布団に入ったときに足にあたるじんわりとあたたかく柔らかいそれは、あーちんが小さかったころを思い出す。

和室に布団をふたつ並べて寝ていたのに、どうやってもわたしの布団に寄ってくる小さくてあったかくて柔らかいあーちん。ぺったりとくっついてきて、油断すると身体のうえに足を置かれたり、蹴られたりした。夜中に窮屈で、足でグイーと押したり転がしたりして彼女の布団に移動させるも、一切目を覚ますことはなく、何度でも猫のようにぬるりと寄ってくる。諦めてそのままにして布団の端っこに身を細くして眠った。(起きると身体がいたいこともよくあった)

それから、ねむっているあーちんの首のあたりのにおいを嗅ぐのがすきだった。赤ちゃんのころは、北海道土産のバター飴によく似た甘いにおいがして、それはどんなアロマよりもわたしの心を落ちつかせた。あー今日も無事に生きていると安心した。ペットも飼ったことがないわたしは、毎日ちいさな生きものと暮らしていることに緊張していたのだと思う。目が覚めたときに、となりで寝ている赤ちゃんを見て、「わー、いる!」と、毎朝おどろいていた。そして朝いちばんに首すじのにおいをかいで落ちついた。赤ちゃんという存在は、不安と安心を両方もっていた。

大きくなってくると、夏はたくさん汗をかいて酢飯のようなにおいがした。それでも寝る前にはいつも、あーちんの首すじのにおいをかいでいた。


2年前に引っ越しをしてから、あーちんは自分の部屋ができたので、今はわたしたちは別々にねむっているのだけど、先日、あーちんと一緒に旅行をして友人の家に泊まったとき、ひさしぶりに布団を並べて一緒にねむった。

あーちんのことを小さいころからよく知っている友人が、寝ているあーちんの顔を見て「大きくなったけど、寝顔はおなじだねえ」と言った。相変わらず手足を全方向に伸ばしてのびのびと眠るあーちんを見て、そうだねえと言った。寝る前に足をぐいーとどかして、こっそり首すじのにおいをかいだら、シャンプーのいい香りがした。

もうバター飴のにおいはしないけど、ぐっすりねむっているあーちんは、世界になにも不安などないような顔をして、わたしを安心させてくれた。

柔らかくあったかいこどもたちが、今夜もぐっすりねむれますように。


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