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8cmのピンヒール

 隣を歩く彼は背が高く足がすらっと長い。私の歩幅に合わせようとはしてくれているが、それでも少し私は早歩き気味になっている。たしかに、私は歩幅は小さい。しかし普段は遅いということもない。つまり今日は特殊ケースであり、その要因は普段履かないフワッとしたスカートと少し高めのヒールである。

 彼は高校の同級生で同じ大学へ進学した仲である。そして同時に親友の彼氏でもある。さらに言えば、二人をつなげたのは言うまでもなく私である。しかし私は彼に会う日はこうしてなれない格好でお洒落をしている。彼の隣で鼓動を足を少し早まらせている私は、なんて滑稽だろう。

 「そういえば今度誕生日じゃん?」と彼が突然聞いてきた。
いや、あの子の誕生日は次の季節だぞ、
と思いながら「え、早くない?」と私。
「ん?お前のだよ?」と彼。確かに私の誕生日は再来週に迫っている。
「ほしいもの考えといて。」と言うと、じゃあと彼は改札の中へ消えていった。私はもう駅についてしまっていたのか、と寂しくなりながら、いまだに私の誕生日を覚えていてくれたことに少し胸を躍らせた。彼はとてもやさしい。それは誰よりも知っている。

 私は駅に背を向け自分の家を目指す。今度は確実にゆっくりと、心のうちからあふれ出してくれる気持ちをかみしめて。
 8cmのピンヒールで少し背伸びをしたところで、見える未来が変わるわけでもないけど。それでも私はお洒落して次会える日を期待している。

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