サスペンス小説『金庫の中からこんにちは』→㉖紅蓮の炎の中で(完結)
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サスペンス小説『金庫の中からこんにちは』→㉖紅蓮の炎の中で(完結)

薫 サバタイス


♦1話だいたい10分で読めます
♦全26話
♦完結済み
♦1話ごとに衝撃をうけます
♦すべて読み終えたとき、あなたの前には新しい地平がひらかれていることでしょう


26



チャーリー大佐が携帯で話している相手は、なんとアメリカ合衆国大統領だった。

「グッドイブニング、ミスタープレジデント(大統領)……」

そう言ったきり、ぎこちなく動くロボットと化す大佐。

ときどき「イエッサー」とか「オウ」とか、あいづちを打っていたが、ほんの30秒ほどで携帯を耳から外した。

しばらく画面をボーと見つめている。

「チャーリー、チャーリー?」

樺山が大佐の肩をゆすぶった。

ハッとした大佐は、肩をさわられているのに気づいて払いのける。

「大統領はなんて言ったんだ、チャーリー? アメリカ側も、要求をつっぱねるつもりだろ?」

のぞきこむ樺山。

内容がわかったのだろう、大佐はうっとうしげに答えた。

「ノオォォォォ!」

しばらくポカンとする樺山。そして絶叫。

「クソがァァァァ――――!!!!」

事態は急テンポで展開した。

自衛隊員に護衛されて銀行正面から入ってきた、「参事官」の男性が交渉を引きつぐ。

「日本国、およびアメリカ合衆国、両国の方針として、犯罪者から突きつけられた要求をのむことはできません。ですが、あなた方がおとなしく投降し――いや、この場合は『自首』になりますか――、サリンジャーの原稿を引きわたすのであれば、"戦争犯罪者"ではなく、平時における司法制度上の"容疑者"として扱うことに異存はありません。つまり司法取引が成立し、このエリアの"戦時下"指定を、ほんの1分前に解除したということです。あ、今は17時55分だから、2分前になるのか」

「細かいことは、どうでもいい!」

ユキ姉が怒鳴った。

急に大声を出された参事官は目を丸くしたが、気をとり直して続ける。

「では、全員すみやかに自首してください。サリンジャーの未発表原稿を忘れないように」

この模様は十数台のカメラにより、全世界へライブ中継された。

参事官は『伝説の守護天使』と取引するにあたって、1つ条件をつけた。

それは、警察が彼女らに手錠をかけるシーンを撮らせることだった。そうすることで、"譲歩"の印象を薄めるつもりらしい。

突きつけられた条件がそれだけだったことに、ユキ姉はガッツポーズしたいところだったろう。

しかしケンの目に映ったのは、頬に張りついたおくれ毛をホッとしたようにかきあげる、彼女の一瞬のしぐさだけだった。

残り3分。

「早くみんなに知らせなきゃ! もうすぐ18時になっちゃう!」

ユキ姉が地下金庫へ通じる階段へ向かって駆け出した。全速力でケンも続く。

「手榴弾をセットしてますもんね。樺山さんは悔しいだろうな。地下に残ってる自衛隊の人に、なんて説明してんだろ」

女性リポーターとカメラマンもついてきた。

「今の気持ちを聞かせてください!」

先を走るユキ姉が答えなかったので、代わりにケンが歩調をゆるめる。

「気持ちもなにも、当たり前のことです。だいたい、全員射殺ってどういうことですか。彼女たちに普通の裁判を受けさせてあげたい。市民としての当然の権利を……あ、カメラ!」

よろけそうになったカメラマンの腰を、サッと支えるケン。

階段を下りた先で、ユキ姉が右へ曲がった。

ケンはカメラマンとともに、薄暗い階段を慎重に下りる。

「大丈夫ですか? ここの階段は狭いから。銀行の地下通路ってこんな感じなんですね。従業員用かな」

「でしょうね。私もはじめてだわ。前に国会議事堂の地下をリポートしたことはあったけど」

ヒールをはいているため、女性リポーターもそろりそろりと下りる。

そのとき、発砲音がした。

一瞬、足を止める3人。

数秒後、爆発音。

3人とも真っ青になって階段を下り、右へ曲がる。

巨大金庫入口で、数人の自衛隊員とユキ姉がもみ合っていた。

多勢に無勢、すぐに彼女は押さえつけられ、後頭部に銃口を押し当てられる。

銃を握っているのは、樺山だった。

「やめろ――――!!」

ケンは走っていき、力いっぱい突きとばす。ゴロゴロと転がる樺山。

ユキ姉に駆けよろうとすると、襟首を引っぱられて倒され、頭にライフルを突きつけられる。

「な、何かがあったんだ!」

銃身をつかむケン。

辺りは煙が充満していた。

金庫内からどんどん流れてくる黒い煙のせいで、見えるのは周囲2メートルの範囲だけ。

女性リポーターが震える手で、樺山へマイクを向ける。

「どういうことですか、これは? いったい何が?」

うめきながら起き上がる樺山。カメラに気づき、フンと鼻を鳴らした。

「『天使』たちを武装解除しようとしたら、発砲されたんだ。こっちにも死者が出てる。早く手当しなければ」

彼は衛生隊を呼ぶよう指示し、撮影されているからだろう、ユキ姉を放すよう命じた。

「そんなはずない!」

ユキ姉は自分を押さえつけていた自衛隊員の股間に膝蹴りをお見舞いすると、金庫内へ飛びこんでいった。

ケンも続こうとしたが、扉の隙間から見えた光景にゾッとなった。

内部は紅蓮の炎に包まれていた。

破壊された扉から、黒煙とともに顔面を血まみれにした人間が這い出てきた。

「サ、サチコさん!」

ケンの腕の中へ倒れこむ彼女。

ねんざした足で這ってきたらしく、腕も手も血だらけだった。

「みんな、死んだわ……かまえる間もなく、隊員が急に撃ってきて、そのあと……誰かが手榴弾のピンを抜いた……こんなことなら、課長がタバコを吸ったとき……止めなきゃ……ガソリンに引火してあいつは……」

「そんな……みんな、死んだんですか!?」

自分の耳が信じられなかった。

ふいに奥から、押しつぶされたような悲鳴が聞こえてきた。

ユキ姉だった。

炎と煙に包まれ、大粒の涙を流しながら仲間たちの体を1ヶ所に集めていた。

彼女に抱きかかえられ、引きずってこられた遺体の中に、首のちぎれかけているドロシーが交じっているのをケンの目はとらえた。

腕の中でサチコがうめいた。

「……弾、ま、まだある……」

脇のホルスターに手をそえ、彼女は動かなくなった。

そこに収まっている銃は、彼女の最愛の夫がかつて使っていたものだった。

背後、2メートルの距離に樺山がいるのはわかっていた。カメラがこの場面をライブ中継しているのもわかっていた。

銃を引きぬき、ケンは振り返った。

                         (了)






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薫 サバタイス
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